甘え上手な銀髪後輩ちゃんの勉強法 ~テストで満点とったらご褒美に『えっち』したい~

🔰ドロミーズ☆魚住

甘え上手な銀髪後輩ちゃんは爪隠す

 俺は放課後、後輩の勉強を見ている。


 最近出来たばかりの後輩は2年生であるのだが、彼女は学内でとてつもないほどの有名人であり、その理由が2つある。


 1つ目。彼女は銀髪で、とてつもなく可愛い。

 2つ目。彼女は学年1のバカである。


「見てください先輩! 4月の実力試験、全教科30点以下の赤点取りました!」


 まるで自慢でもするかのように失点だらけのテスト用紙を見せてくる銀髪の美少女の名前は山崎やまさきシエラ。


 彼女は俺の1学年下の後輩である。


「そっかぁ、赤点か……全教科赤点か……」


「先輩は私がどれだけバカなのか知っていますよね? この前のテスト全教科で赤点取っちゃった学年最下位の学園一の美少女なんですよね、私」


「びっくりすぎる頭の悪さだな!?」


「でも、顔はいいですよね?」


「……ノーコメント!」


 嘘である。

 彼女の顔面はまさしく人間国宝のソレであり、彼女は誰がどう見ても美人である。

 

 可愛さと綺麗さと美人さがバランス良く同居しているとでも言うべきだろうか。

 世界で一番顔がいいのは誰かというアンケートがあれば余裕でランキング上位に組み込みそうな顔面をしているのが彼女なのである。


「確かに私の顔はいいですけど、頭が悪くてですねぇ。あーあ。先輩みたいに頭が良かったらなぁ」


 そんな事を言いながら挑発的な目線をこちらに向けてくる彼女はとても顔が良いのだが、とても頭が悪いのである。


 そして、俺はそんな彼女と何だかんだあって、誰も使わない空き教室を使って、2人きりで彼女の勉強を見ている訳だ。


 と言っても、俺と彼女は彼氏彼女の関係ではない。

 どこにでもいるような先輩と後輩の関係であって、別に俺は彼女に恋愛感情など抱いてはいないのである。


「あのなぁ、山崎やまざき。来年お前受験だろ? そんな点数で本当に大丈夫か」


山崎やまざきじゃありません。山崎やまさきです。そこのところお間違いなく。いちいち修正するのもアレなんで下の名前で呼んでいいですよー?」


「やだ。お前を下の名前で呼んだら絶対にからかわれるからやだ」


「バレましたかー。大正解ですよ先輩。流石、学年で1位を取り続けるだけの事はありますねー」


「その話題、今関係ある?」


「ないですねー」


 彼女の現段階の実力を知るべく、彼女が受けた実力試験で間違えた箇所を徹底的にするつもりであったのだが、流石に失点箇所が多すぎて出鼻をくじかれた。


 しかし、俺に勉強を教えて貰いたいという彼女の思いを無駄にする訳にはいかない。

 

「おやおや? 先輩、いきなり難しい顔をなさってますねー。私みたいなバカの面倒を見てくれるだなんて先輩優しいですねー?」


「これ以上茶化すのなら勉強は教えないからな」


「おっと失言失言。でも、こんな私の面倒を見てくれる先輩に何かご褒美をあげたいなぁという思いはあるんですよ?」


「前途多難ではあるけれども、別にご褒美はいいよ。そんなつもりでやった訳じゃないし」


「無欲ですねー。でも、私は強欲で謙虚な美少女ですので、ご褒美欲しいですねー」


 そう言うと、彼女はそうだ、ととても嬉しそうな顔をして、名案を思いついたと言わんばかりに両手を合わせて軽い音を鳴らしてみせた。


「では、私がテストで満点を取ったら先輩がご褒美をあげるというシステムはどうでしょう!」


「いや、そんな事を言ってもテストで100点を取るのは想像以上に難しいぞ? 絶対に後悔するからやめとけって」


「絶対は絶対にないって織田信長さんも言っているじゃないですかー。それに先輩、これは絶対に先輩が勝てる戦いじゃないですか?」


「は? どういう意味?」


「私みたいなバカがどれだけあがいても満点なんて取れる訳ないじゃないですかー。最悪、赤点圏内から脱出。最高でも80か90点を取れるぐらいが限界の私ですよ? そんな事、去年の私の成績を見れば分かるじゃないですか」


「いや、自分をそんなに卑下しなくてもよくない?」


「それに私もこういうのがあればモチベーションが上がって満点取れるかもしれませんし……! 私、絶対に勝てる戦いしかしない主義なんです! どうして負ける戦いをする必要があるのでしょうか!? 100点を取れる者は最初から100点を望んだ者である! 違いますか先輩!」


 そう高らかに力説してみせる彼女であった。

 確かに彼女が言う事は至極当然の事であるかもしれないが、それでも、やはり躊躇を覚えてしまうのも確かである。


「ですので、私が満点を取れるだなんて夢のまた夢。どれだけ頑張っても無理かもしれませんが、それでも人生で一度は満点というものを取りたいじゃないですか……!」


 しかし、テストで満点を取った時の快感というのはとてもいいものである。

 テストの結果が張り出された際に堂々と一番上に自分の名前が載って時の快感はとてもいい。


 どうせなら、その快感を覚えさせれば、彼女の勉強のモチベーションにも繋がるかもしれない。


 満点を取れなくても、次こそ満点を取って見せるという持続的なモチベーションを期待できるという意味では彼女の提案は決して無視できるものではないのだが――。


「……でもなぁ……」


 満点を取れない所為で勉強が嫌いになってしまえば、本末転倒ではある。

 しかし、彼女がここまで言っている訳なのだから、そんな彼女の意思を無視するのも頂けない。


「……分かった。でも、満点を取れなかったからと言って、自棄やけになるのは駄目だからな?」


「やった! 私、バカな頭をフル回転させて満点とってやりますからね!」


 おー! とガッツポーズをしてみせる彼女は大変可愛らしい。

 俺は渋々悩んだ末に彼女の提案を呑む事にしたのだが、そんなやる気にあふれている彼女を見て、俺も彼女が満点を取れるように精一杯サポートしてやらねばならないと気を引き締めた。


「じゃあ、次の期末試験は……6月か。今は4月だから十分に時間はあるな。ゆっくりと勉強を進めていこうか」


「分かりました。ところで、今度の期末試験には保健体育がありましたねー?」


「……確かにあるけど。でも大学受験には関係ないし、わざわざこの時間に教えなくてもいいだろ」


「で、す、が! その理屈なら保健体育のテストも満点を取ったらご褒美はありますよね?」


 困った。

 確かに彼女の指摘通り、家庭科などの授業も満点を取ってしまえば彼女はご褒美を得る事が出来てしまう訳である。


 しかし、受験において内申点はとても大事なものだ。

 特に家庭科や保健体育は簡単に内申点が取れるサービス教科と言っても過言ではないだろうから、俺は悩んだ末に彼女の提案を呑む事にした。


「いいよ。でも、ご褒美って言ってもお金がかかるのは禁止な」


「お金のかからないご褒美にしますからそこのところは安心してくださいなー」


「例えば?」


「例えばですか。じゃあ、先輩。次のテストで満点を取ったらご褒美に恋人として付き合いませんか?」


「――はぁ!?」


 素っ頓狂な声を出す俺に対し、彼女はくすくすととても愉快そうに笑っていた。

 まるで俺の反応自体が予想通りであると言わんばかりに笑っていた。


「そういえば。保健体育って先輩なら簡単に満点とれるでしょうけれど、私、バカなので実体験しないと理解できないんですよねー」


「え?」


 どういう意味だと問いただそうとした瞬間、彼女は綺麗すぎる顔を俺の眼の前に近づけてきて――。


「という訳で、先輩。勃起してください。そして、子作りの勉強しましょ?」


「出来るかそんな事!?」


「あれ? そうなんですか? でも、あれれ~? おかしいですね~? 先輩~? 大きくなっていますよね~? 私といる間からずっと大きくなってましたよね~?」


「こ、これは……!」


 不可抗力だと叫ぶ前に彼女は、俺の耳元まで唇を近づけて。












「変態」














 そう言い放った後、くすくすと笑う彼女はまるで面白いおもちゃを見つけた悪餓鬼のような顔をしていた。


「と、と、と、とにかく! 満点取れるまでそんな事は絶対にしないからな!」


「そんな事って? え? 何ですか何ですか? 教えてくださいよー?」


「うるせぇ! そもそも満点なんてそう簡単に取れるようなものじゃないからな! 絶対に後悔するからな!? じゃあ俺は急用を思い出したから帰るわ! お前も帰れよ!?」


「えー。放課後にか弱い私を1人で帰らせるんですか?」


「ぐっ!?」


「えへへ。先輩のそういうところ、私、大好きですよー」


「さっさと帰る準備しろよ!」


「はーい。でも、すいません。両親から連絡が来ていたみたいなので、先に校門前に行っていてくれませんか? 連絡が終わり次第、先輩に合流しますね」


「おう。分かった。じゃあ、後でな」


「はーい。後ほどー」


 間延びした返事をした後輩を空き教室に置いて、俺は自分の帰り支度を済ませに3年生の教室に戻っていった。


 勉強を教えると言っても、全然勉強が進んでいなかった勉強会初日の出来事であった。




━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「さて、と」


 教室に戻っていったであろう先輩を見送った後、私は自分のスマホの画面を開き、両親から来ているのであろうどうでもいい連絡に目を通した。



 シエラ、おめでとう! 

 東大模試の結果出たけどだったわ! 

 シエラはやる気さえ出せば満点取れるのに、いつも計算されたように30点以下ばっかり取っていたから、お母さん心配してたわ! 

 そもそもテストで遊んじゃダメだからね!


 

 私は母の連絡を見た後、適当なスタンプを送り返し、すぐさま机の上に散らばっていた勉強道具を片付ける。

 

「……、私」


 これから先輩が卒業するまで、私は隠し続けていた実力で満点を余裕で取り、先輩にたっぷりご褒美を貰うのだ。


 そう考えると、自然と笑みが止まらなくなってしまう。

 さてさて、この1年間、先輩にどんな『』をして貰い続けようかな……?


 私は期待で胸を膨らませながら、校門の前にいるであろう先輩の元にへと向かったのでした。

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