真夏の夜の短編集
日向 たかのり
肌寒い朝に、溶けるような約束をした
その日は、とても寒い朝だった。
身も凍るような朝。
大嫌いだ。
うだるような夏より、冬が好きと言う人もいる。
けれど、それでも夏が好きだ。
朝、その子は「おはようございます」と挨拶をしてくれた。
いつも気になっている子だ。
その時だけは、冬なのに心の中が温かい。
外の寒さとちょうど混ざり合って、春の様なポカポカとした感じになる。
「元気ないですね?」
小首を傾げて、その子は心配してくれる。
「そんなこと、ないけど」
少し強がってみた。
実は、冬の憂鬱さで死にたくなる気分だからだ。
「あ、あのー」
「何ですか?」
不思議そうにその子は僕を見る。
「季節は、どれが好きですか?」
(いかん、話すことないから、適当な事を聞いてしまった)
「えー? 夏?」
「本当に?」
「ええ。海好きなので」
「ですよねー」
「ふふふ。面白い人」
「あの、今度の休み、時間ありますか?」
「え? 何ですか?」
「いや、その……」
「ん?」
「映画、見に行きませんか?」
(べたな誘いをしてしまった。こんな唐突に誘っても、やんわりと断られてしまうだろうな)
「え? 良いですよ」
「そうですか。残念で……、え?」
「はい?」
その人の真ん丸とした瞳が、とても可愛らしかった。
そして、顔が熱くなっていく。
「あ、いや。OKなんですか? 本当に?」
「はい」
僕は、冬も良いもんだなと思うことができた。
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