プロポーズの予行演習
DITinoue(上楽竜文)
第1話
キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……
「
「起立、気をつけ、礼、お願いします」
お願いします、と珍しくビシッとした声。
「着席」
ドサッと、暑苦しい多目的ホールに八十人が体育座りする。
「それじゃあ、三学期になり、受験もあるがその中で、ここから恋愛実習活動を始めていく。今回がその第一回だ。まず、校長先生からお話をしていただく。……おい
「へい」
「返事はしっかりしろ、野球部であいさつの仕方を教わらなかったのか!」
教卓を私はダン、と叩き、生徒はみんな震え上がる。
「……はい」
消え入りそうな声だったため少々不満だったが、これ以上長引かせるつもりはない。私は校長にマイクを手渡した。
「……コホン」
校長の段野は下手くそな空ぜきをし、話し出す。
「改めて、みなさんこんにちは」
その、なまりすぎている関西弁をやめろ、ハゲデブおやじめ。
「ええっと、まあこれからね、恋愛実習活動、愛活を始めていこうと思うんですが、まあ後で、もう一回
子作りと言ってプッ、と笑った奴がいるな。
「日本は今、二〇六〇年となっていますが少子高齢化はますます進んでいます。そこで、
「……ありがとうございました」
「では、私、一組担任の新藤から話をする。大体のことは校長先生がお話しされていたことだ。ここで一つ言っておくが、この恋愛実習は貴様らの『リア充になりたい』だとか『彼氏欲し~い』だとかいう欲望を満たすための遊びではない。あくまで、少子化が進む日本に多くの子供をもたらすために行う、ということを忘れるな!!」
あぁ、この空気。この張り詰めた雰囲気。私はこの瞬間、一番教師として満足感を覚える。
「以上。続いて、
「はい、二組の竹山です」
この太り気味の体から出てくる高い声がまた、生徒に舐められる要因になっているのを本人は分かっていないのだろうか。
「いやー
「……
この一組副担任はなぜか竹山が気になっているらしい。それが、私には不可解でしかない。
「まあ、大体は新藤先生が言ってくださったとおりですね。はい。まあね、卒業までもう少しだし、そこで受験勉強があったり卒業の準備があったりするわけですから、まあ息抜きにもしていただきたいと思いますね。彼氏彼女がいるってすごい良いことですからね。青春って感じでね。受験期間中とか励まし合ったり。ま、緊張感持って、なおかつ楽しく行きましょうね。じゃ、終わりまーす。気を付けーっ、礼」
マイクを教頭に渡しに行って帰って来た竹山に、私はなるべくドスの利いた声で言う。
「先生、せっかく私が緊張感持たせようとしたところを、楽しく行きましょうとかかぶせられると困るんですよ。それと、伸ばし棒で喋んの止めてください。緊張感が無くなってしまいます」
「いやーでも、やっぱりすでに張り詰めてますからね。青春大事にしないと」
「何が青春ですかっ」
この瞬間、生徒のヒソヒソ話は私の耳には入ってこない。
「毎回言いますけど、今の若者はたるんでます。私の友達は話してるときもご飯食べるときもお風呂入ってるときも、ずっとスマホです。マッチングアプリとか使って騙された人も最近多いです。こんな人を琴天坂から出してたまるもんですか」
「だからって、新藤先生みたいに厳しすぎたら、息苦しくて誰もついてこなくなります。特にこの時期って思春期ですから、大人への反発心が強いでしょ? そんな時期にこの指導法じゃあ、教師を嫌いになってしまいますよ」
「教師と生徒が仲良くする必要なんてありません」
「いやいや、そんなことはないでしょう」
「あります。そんな思い出とか青春とかどうでもいい」
「いやいや、絆があってワイワイするクラスの方が確実に心に残ります」
「あの……、始めてもらっても……?」
教頭が申し訳なさそうに声をかけた。
「それでは、まず新藤先生と竹山先生に、最初にキスの実習をしてもらいますね」
私と竹山が前に立ち、平林が司会をする。
ところで、ヒューヒューと冷やかすような声が癇に障る。
「黙れ」
「いや、まあまあまあ」
「竹山先生は黙っててください」
「では、お願いしまーす」
と、平林の声で竹山は急に目の色を変えた。
「……キレイな白い肌ですね」
私の顎をそっと上げ、左の頬をそっと撫でてくる。
「は……?」
「やらせてください」
「や、や、ちょせんせ……? なんか気持ち悪……」
いつもはただのデブでズボラな熊顔にしか見えない竹山の顔が、今はなぜか紳士に見える。何だこの豹変ぶりは。
だんだんと私の顔を竹山は自分の胸のあたりに近づける。
「I LOVE YOU」
そして、頬にほんのり熱いものが触れた。
「あ……っ」
ジュワッと、私の頬と胸に熱いものが走った。
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