第28話 神々の父

「――しかし良く避けたねぇ!さっきのは本気じゃなかったけど有りないよ」


その美少年は感心したように手を叩いてハルトをめた。


「誰だお前は…?何者なんだ?」


聞きたい事は山ほどあるハルトだったが、慎重しんちょうに美少年と会話を進めた。

いつ反感を買って殺されてしまうかも分からない。


「誰って聞かれると回答に困るなぁ?人々は僕を”ゼウス”や、”アマテラス”、”イザナミ”などと呼ぶ。……”神々の父”といったところかな?」


「――神…だと?」


”神”なんて存在は元の世界でも信じていなかった。

それは何かにすがりたかった人類が作り上げた仮想にすぎないと。


しかしいきなり”神”と言われても、すんなりとできてしまう神聖さ、存在感がそこには確かにあった。


だがいきなり殺そうとした理由はなんだ。

目の前の人物に恐怖し、ハルトの足はふるえていた。


「――困るんだよねぇ、君の気まぐれで世界の均衡きんこうを崩されるのは」


その神は腕を組み、不機嫌そうにハルトを見つめた。

彼の目的というのはこの世界の均衡保つことらしく、バランスを崩しかねない異端イレギュラーであるハルトを消すために地上に降りてきたきたというのだ。

世界の均衡というのも、魔族と人族のどちらもほろばないように調整することが主な仕事らしい。


「さっきの攻撃だって、本来人族がけられる訳が無いんだよ」


レベル15000オーバーのハルトでさえ、あの場面で「限界突破」を使用していなければ即死だった。まだこの首がつながっていることが不思議なくらいだ。


「――どこでそんな力を手にしたのかも知らないけど、世界の為に死んでくれって言っても…まぁ無理だよね」


一瞬途方とほうもない殺気を感じたが、神は諦めたように肩をすくめて首を横に振った。


「それで、君の目的は何なんだい?」


神の表情から笑みが一切消えた。

回答によってはすぐに殺されてしまうだろう。

ハルトは慎重に言葉を選んだつもりだが、その答えに嘘偽うそいつわりは一切ない。


「……俺は人族の味方でもないし、魔族に味方するつもりもない。ただ、猫耳族の女の子を故郷に送りたいだけだ」


「――ふぅん……、」


神は少し考えた後緊張を解き、その顔に笑みを浮かべていた。


「確かに君は見てて楽しそうだし、いつでも手は下せるからとりあえずは殺さないでおくよ」


ひとまず命拾いはしたようだ、何か変な事をすればすぐにまた命を狙われるだろうが。

リリは自分達の無事が一旦保証されたことに、安堵あんどの息をついた。


「…なぁ、まさか俺達をこの世界に呼び出したのも?」


ステータス値によって思考に補正がかかっているのかは不明だが、ハルトはすぐにその可能性をはじき出した。


「――惜しいね。でもそこまでの力は僕には無いよ、僕がしたのは君の世界とこの世界を繋げただけさ」


あくまで自分は召喚できるようにすることだけであり、それをするか否かは王国の判断次第ということらしい。


「じ、じゃあ元の世界に帰る方法もあるのか」


前の世界と比べるとこっちの方が楽しいのは事実なのだが、やはり家族の顔は見たいしゲームもやりたい。

方法があるなら、ミーシャを送ってからでもいいからハルトは一度日本に戻りたかった。


「――そうだなぁ、それはルディン王国の国王に聞いてみるといいさ」


――その頃のグローリア王国――


「クソッッ!!なんで上手くいかないっ!!」


舌打ちをし、苛立いらだちをあらわにしながらガツガツとブーツを鳴らすのはグローリア国王に召喚された御堂みどう国大くにひろだ。


「──それで、また失敗であるか?御堂殿」


国王の問いかけを受け、目を見開いた御堂は苦し紛れに言い訳を並べる。


「…っ!いや、違う!!へ、兵士も、他の奴らも何の役にも立たねぇ!!」


自己中心的な発言が止まらない御堂に、国王は内心あきれたようにその玉座から見下ろしていた。


「多大なる資金をはたいて召喚した勇者候補がこれか…」


クラスメイトの中で1番強い御堂が現在の勇者候補となっており、1週間後には正式に勇者になるという話だ。


招宴しょうえんにて他国の有人にその力を見せることによって、グローリア王国の立場を示すのだが、その勇者がこれでは……と頭を抱える国王だった。


「──ふむ、ではムーノ砦を奪還だっかんせよ。優秀な宮廷きゅうてい魔導師を教師として付ける、作戦開始である1週間後までに個々の能力を高めよ」


「つ、次は必ず成功させてやるさ、魔族なんて皆殺しにしてやるッ」


御堂は王宮の扉をって開け、早歩きで出ていった。

明らかに様子がおかしい御堂の姿を見かけた花楓かえでは、前に立ちはだかった。


「ちょっと!国大!!国王との話はどうなったの?」


御堂は気まずそうにうつむいて答えるが、その怒りは段々とハルトに向かった。


「──教師を付けるから1週間後までに鍛えろだとよ。粘土野郎も居なくなって邪魔が無くなると思ったのに、なんでこうなるんだよッッ!!」


御堂は己の弱さ故の怒りを殴って壁にぶつけた。

どんどん余裕を失っていく御堂に、正直花楓は愛想をかしていた。

しかし自分が役に立たないのも悪いんだ、と責任を感じてもいた。


花楓との会話が終わると、御堂はそのまま早歩きでどこかへ行ってしまった。


──夜が深まり、花楓は就寝の準備を終えベッドに身を預けていた。


「ハルトくん、元気かな…?」


一緒に魔王討伐に行けないのは残念だしさびしいのだが、戦闘向きのスキルでないハルトを連れ出した方が危険だろう。これで良かったのだ、彼はきっと平和に暮らしている。


花楓はハルトに思いをふけっているうちに、微睡まどろみに落ちてしまった。

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