〜メリアルガ公国へ〜
第13話 ミーシャの武器
“唯一実現不可能な旅は、いつまでも始まらないものだ”
The only impossible journey is the one you never begin. ──トニー・ロビンズ
「――ゴトゴト…」
ハルトは時折ミーシャと雑談をしながらも、基本的には静かに馬に乗っていた。
何せ「馬術」スキルはLv10なので、寝ぼけてでも馬は自分の思い通りに動いてくれる。
なので意識の8割をステータス画面に割り振って色々と試していた。
ミーシャはかなり暇なようで、ずっと窓から外を眺めている。
馬車を売ってくれたおじさん曰く、グローリア王国からは馬車で2日程度だそうだ。
「――なぁ、ミーシャ」
「はい?」
声を掛けられハルトの方を振り向くミーシャ。
きっちり猫耳の横で結われた2房の髪も一瞬遅れてこちらを向く。
「その髪型は誰かに教えて貰ったのか?」
「…はい。母親によくこうやって結んでもらっていたんです」
ミーシャはハーフツインの2房を両手で触る。
やはり家族が恋しいのか、少し懐かしむ表情をする。
「そっか…ミーシャのお母さんはどんな人なんだ?」
「…そうですね…。誰にでも優しくて空気の読める人、でしょうか?」
ミーシャの母親だ。きっと本当に優しいのだろう。
無用な心配を掛けないためにも、早いうち母親にミーシャは無事だと伝えないとな。
だが話を聞く限りミーシャは村からは出たことが無い箱入り娘らしく、何処から来たのかも覚えていないので故郷の手掛かりがまるで無い。
…知ってそうな誰かに手当り次第聞くしかないか。
「ハルト様のお母様はどのような人だったのですか?」
「――俺の母親か…」
今思い返して見れば、色々迷惑を掛けてきたと思う。勿論ムカつく事も多々あったな。
「そうだな、口うるさかったけどなんだかんだで1番心配してくれた人かな?」
父親はハルトへの虐めに対して、「そんなん鍛えてやり返せ!」という完全な根性論だったが、母親は学校で先生と相談してくれていた。虐めは一旦落ち着いたものの、直ぐに再発したが。
しばらくミーシャと話し、話が終わりそうなタイミングでとある物を手渡す。
「…そうだ。ミーシャ、これ」
それを手に乗せるミーシャは首を傾げる。
この世界では見たことが無い形をしている為だろう。
「……なんですか?これは」
黒塗りの無骨な見た目をしたそれ。
丁度ミーシャの両手いっぱいに収まるサイズだ。
「――それは”ハンドガン”って言うんだ。それがこれからミーシャの武器だ」
「これが、武器…ですか?」
「ああ、そいつに何か名前を付けてもいいぞ?」
一気に完成品を作ろうとしてしまうとスカスカになってしまうので、昨日の夜から今に至るまで、パーツひとつひとつ試行錯誤して作っていたのだ。
ミーシャが使う用なので、あまりの衝撃に両手が吹っ飛ばないように力はセーブしてある。
とは言っても、ゴブリンやオーク程度なら瞬殺出来る。
素材はオリハルコン製だ。「ステータス鑑定」曰くこの世界で2番目に硬い素材らしい。
作りは非常に簡単で、トリガーを引くと中の銃弾に魔力が通り薬莢中の”炸裂鉱石”に刺激を与え銃弾を発射する。
“炸裂鉱石”とは魔力などで刺激を与えると爆発する性質を持つ鉱石だ。現代での火薬よりも激しく爆発するので、完全上位互換である。
「その先端の穴から弓矢の様に弾を発射する、飛び道具だ。オークの顔面を軽く吹き飛ばす位の威力はあるから慎重に扱うように」
「…!わ、わかりました、ありがとうございます」
とてもそのフォルムからは想像出来ない、恐ろしい武器を今この手に持っているという事実に動揺するミーシャ。
「これが弾だ。この”マガジン”に弾を込めてここに挿して、”スライド”を引いてこの”トリガー”を引けばもう撃てる」
「…まがじん?すらいど?とりがぁ?」
ミーシャは聞いた事の無い横文字に首を傾げる。
ハルトはミーシャの目の前でリロードから射撃まで実演する。
「――ドパァンッッ!!」
ハルトは試しに空中を飛び回る鷲を撃ち抜いた。
その
〉「射撃」スキルを得た。
「…今日の夕飯だな」
ハルトは馬車から飛び降り、狙撃した鷲を掴んでまた戻る。
「あ、ミーシャ、死んだ動物は大丈夫なのか?」
「はい。村で家畜の解体などはやりました」
見かけによらず
これで無理だと言われたら旅は厳しかっただろう。
「じゃあミーシャ、試しにあの豚を撃ってみて。手前と先端の出っ張りを標的に合わせて指を引くだけだ」
「…は、はい。やってみます」
集中してサイトを覗き込むミーシャ。
恐らく最初の射撃は大きく外すだろう。訓練していずれ当てられるようになればいい。…とハルトは考えていたが、現実はその通りにはならなかった。
「――ドパァンッッ!!」
ミーシャが放ったその銃弾は真っ直ぐと豚のこめかみを撃ち抜いた。
人生初にして40mほど離れた的に当てるなど、脅威の才能だ。ハルトは持ち前の反射神経、集中力で当てたがミーシャは素で当てたのだ。
「…!やった!やりましたよ!ハルト様!」
めずらしくはしゃぐミーシャ。余程嬉しかったのだろう。
「――あ、ああ……ミーシャには射撃の才能があるな」
ハルトはミーシャの異才に驚きつつ、馬車を止めて豚をアイテムボックスに回収した。
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