海岸線をずらす
高宮現
海岸線をずらす
あ、ペンギンしゃべったと言うこどもの母親を海風がそっと
海に出てスニーカー濡れてもいいやと思えた夏の帆を張る力
潮風の境目に立つ自転車が透明なかごで世界を区切る
いつの日もイヤホンしてるこのままを続けるために 聞こえなくても
流れる雲が月を横切るいつまでも噛み合わない会話を続ける
見たまんま 毛深い犬に心臓をほおずりされたような気分
言ってしまえば簡単だけど雨上がりの水滴による
やぶれた濡れ翅ゆらゆらと夕の花蜜吸う揚羽蝶
陽光が枝々に掛かる 根は暗く色のない季節を見続けて
転ぶときゆっくりになる時間を集めたようなひややかな日々
あのとき聞き流した嘘も くっつけた線香花火ポトンと落ちる
エアコンの冷気が世界分かつ夜なにか言いかけてはやめる君
朝焼けに開く花火の光彩の一瞬のごと燃ゆる少年
蛾を誘う青色街灯もとより蒼い心を照らす 淡い
改札で「落としましたよ」と手渡されたフリーズドライの縁日金魚
二千年変わらず続くという仕事をする人たちのApple Watch
照り返す西日のなかで米とげば夏空映りしずかにゆらぐ
不発弾おそれぬこどもがめをとじて「もういない? ひかるイルカ」
近いのに遠く聞こえる波の音、君の語る夢、あぶくが残る
海岸線を少しずらす 八月の終わりにはたぶん戻せると思う
海岸線をずらす 高宮現 @gentakamiya
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