第67話 冒険者学校へ 3
自己紹介が終わった後、フィーネ先生が今後の予定を話す。
予定では数日間、練習場で特訓した後、ダンジョンに潜るとのこと。
俺たちはフィーネ先生から予定を聞き、さっそく練習場へ移動する。
「剣術をメインにする方はカミトさんへ、魔法をメインにする方はメルさんから習ってください」
とのことで、俺のもとにサヤとシャルちゃん、そしてユメさんが集まる。
リーシャとレオノーラは魔法がメインになるようだ。
俺は集まった3人からメイン装備を聞く。
すると、サヤとユメさんが俺と同じ長剣。
シャルちゃんはセリアさんと同じ双剣とのこと。
「まずは一人一人の実力を見たいから、俺と一対一の模擬戦をするよ」
俺はフィーネ先生からもらった木刀を3人に渡す。
フィーネ先生にはやることを事前にお伝えしてたため、シャルちゃんには木刀の双剣が用意されている。
「まずはサヤから」
俺はサヤを指名し、サヤと模擬戦を行う。
「何でも使っていいぞ。スキルも遠慮なく使ってくれ」
「はい!行きます!」
俺に向かってサヤが突っ込んでくる。
(速いな。17歳とは思えない速さだ)
俺との距離を一瞬で詰めたサヤが剣を振り上げて、俺に向けて振り下ろす。
それを俺は木刀で受ける。
防がれることは想定内のようで、サヤが休むことなく攻撃を続ける。
(攻撃のスピードも速い。休むことなく攻撃が繰り出される)
並の冒険者なら数回は攻撃を喰らっているだろう。
だが、俺にとっては容易に防ぐことができ、木刀で全てを受け切る。
(軽い。スピード重視なんだろうが攻撃が軽すぎる。それに単調な攻撃だ)
俺がひたすら木刀で攻撃を防いでいると体力がなくなったようで、スピードと威力が落ち、隙が生まれる。
「はぁーっ!」
その隙を逃さずサヤの木刀を弾き、木刀をサヤの首元に突きつける。
「ま、参りました」
俺はサヤを降参させる。
「私、冒険者学校ではトップの実力を持ってますが、やはりS級冒険者には敵いませんね。まだまだ鍛錬が足りません」
去り際、サヤが前向きな発言をする。
メルさんから模擬戦でコテンパンにしてほしいと言われていたため、コテンパンにしたが…
(なるほど。負けたことで自分の実力を知り、今以上に精進してほしかったんだな。メルさん、ホント妹想いだなぁ)
そんなことを思う。
「さて、次は……」
「ウチが行きます!」
俺が呼びかけるとシャルちゃんが手を挙げる。
「ウチもスキルをバンバン使いますから!」
「あぁ!遠慮なく使え!」
「行きます!」
シャルちゃんが双剣を構えて突っ込んでくる。
双剣の良さは武器を2つ持つことによる攻撃回数の多さだ。
それを存分に活かし、俺に怒涛の攻撃を仕掛ける。
しかし…
(重心移動が上手くない。攻撃パターンが分かりやすい。それに闇雲に振り回しているところもある)
フェイントも単純なものが多く、素人は騙せるフェイントだが、熟練者には通用しない。
それに、無駄な動きも多い。
いつでも反撃できるくらい無駄な動きが多い。
そのため…
「きゃっ!」
俺はシャルちゃんが持つ木刀2本を弾き、首元に木刀を突きつける。
「うぅ。負けました」
暗い表情でシャルちゃんが負けを認める。
その姿を見て落ち込みすぎだと思い、俺は良かった点を伝える。
「そこまで落ち込まなくて良いよ。これで16歳なら将来はセリアさんみたいに立派な双剣使いになれるよ」
「ホントですか!?」
「あぁ。俺が指摘する点を直せばね」
「わかりました!ウチ、これからも頑張ります!」
先程の暗い表情などなかったかのように明るい笑顔で俺のもとを去る。
「さて、最後はユメさんだね」
俺が呼ぶとユメさんが俺のもとへ歩く。
(フィーネ先生が言っていた問題を抱えている生徒、ユメさん。問題の内容もあらかじめ聞いている)
それは、ユメさんが持っている戦闘系スキルを一切使えないこと。
俺はフィーネ先生から聞いた会話を思い出す。
「ユメさんは剣術の名家が出身です。だから、物心ついた頃から剣を学んできました。そしてスキルを授かる12歳の時、無事、戦闘系スキルを手に入れることができました。しかし、なぜかユメさんは戦闘系スキルを使えないんです」
俺はフィーネ先生から聞いたことを思い出しつつ、いつでも攻撃していいことを伝える。
「い、行きます」
ユメさんが木刀を持って俺との距離を詰める。
しかし、ものすごく遅い。
走って俺との距離を詰めるが、スキルを使っていないため、一般人が走るスピードで俺との距離を詰めることとなる。
「はぁーっ!」
そして俺に向けて剣を振る。
これも身体強化系のスキルを使っていないんだろう。
攻撃は遅く、軽い。
俺はユメさんの攻撃を簡単に防ぎ、追撃するよう促す。
俺の意図を感じ取ったのか、ユメさんが俺に追撃してくる。
しかし、これもスキルを使っていないため、全て簡単に防ぐことができる。
(攻撃の筋はいい。何千回、何万回と素振りをしてきたことが分かる。それに攻撃パターンも多彩だ。ハッキリ言って技術だけならサヤよりもユメさんの方が上だろう)
だが、スキルを使っていないため、俺に攻撃を加えることができない。
そして、すぐに体力が底をつく。
「はぁはぁはぁ……」
「ここまでにしようか」
「は、はい……はぁはぁ……あ、ありがとうございました」
暗い表情のまま、俺のもとから去る。
「みんなの技量は今ので分かった。改善して欲しい点もたくさん見つけた。まずはサヤ」
俺はサヤとシャルちゃんに改善点を伝える。
【剣聖】スキルで剣聖の技術を引き継いだ俺なら剣術の指導は簡単だ。
「2人は今言ったところを重点的に特訓してくれ」
「「はい!」」
「そしてユメさん」
「は、はい」
自信なさそうに俯くユメさん。
「剣筋がとても良い。家で何千、何万と剣を振ってきたことがわかる」
「……え?」
褒められるとは思わなかったのか、ユメさんが驚きの表情となる。
「この剣術は俺に匹敵するレベルだ」
正確には500年前の『剣聖』に匹敵するレベルだが。
「だからスキルが使えないのはもったいないと思う。ユメさんさえよければ、俺もユメさんがスキルを使えない原因を考えていいか?」
「そ、それは構いませんが……カ、カミト先生の時間を無駄にしてしまうと思います」
きっと色々な方法を探したのだろう。
ユメさんの言葉から、諦めていることが伝わってくる。
だが、俺はユメさんが本心から諦めているとは思っていない。
そのため俺はユメさんの手を握る。
「っ!」
突然握られたことにユメさんの体がビクっとなる。
「ごめん、突然触って。でも触って確認したかったんだ。ユメさんの手を」
「ユメの手……ですか?」
「あぁ。そして分かった。ユメさんが毎日欠かさず剣の素振りをしていることを」
女の子には似合わないマメだらけの手。
「これはユメさんが本心では諦めていない証拠だ。俺はそんなユメさんを見て、ユメさんのためになりたいと思った。だから全然無駄な時間じゃないよ」
俺は優しくユメさんに言う。
「………そ、そんなことを言ってくださったのはカミト先生だけです」
俯いているため表情は分からないが、俺の説得は成功したようだ。
「よし。じゃあ、時間の許す限り今日は俺と模擬戦をするぞ。指摘された部分の練習は1人でもできるからな」
「「はい!」」
その言葉に返事をする2人と、握られた手を見つめるユメさんがいた。
臨時講師初日が終わる。
「うーん、どうしたものか。やっぱり賢者さんで原因を調べるのが手っ取り早いか」
俺は屋敷のリビングでユメさんのことを考える。
「カミトくん、今日の臨時講師はどーだったの?」
すると、ヨルカさんから話しかけられる。
「あぁ。大変だと思ったよ」
俺は素直に感想を伝える。
「しかも、教える子たちがみんな女子生徒しかいないんだ。年頃の女の子ばかりで気を使うよ」
「へー、リーシャちゃんとレオノーラちゃん以外も女の子なんだ」
「あぁ。メルさんの妹のサヤにセリアさんの妹のシャルちゃん。そしてユメさんっていう女の子だな。あ、それと先生もフィーネさんっていう女性だったなぁ」
俺が簡単に出会った人を説明すると…
「なるほど。最後の1人は冒険者学校で出会ったのか」
ボソっと何かを呟く。
「どうしましたか?」
「ううん、なんでもないよ。臨時講師、頑張ってね」
そう言ってヨルカさんが立ち去る。
「なんだったんだ?」
俺は首を傾げながらヨルカさんを見送った。
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