第66話 冒険者学校へ 2

「え、えーっと……何これ?」


 校内にいた女子生徒が俺を見て盛り上がる。


「お兄ちゃんのファンだね」


「カミト様のファンですわ」


「………マジで?」


「はい。カミト様はご存知ないかと思いますが、校内では特に女子生徒から、絶大な人気を誇っております」


「………なんで?」


「そりゃ、お兄ちゃんは国を救った英雄でリーシャちゃんとレオノーラちゃんの2人と婚約したからね。噂になって当然だよ」


「も、もしかしてクレアに迷惑かけてるとかは……」


「それはないから安心して。むしろ、お兄ちゃん効果ですぐ学校に馴染めたよ」


「そうか。なら安心だ」


 リブロでは俺のせいでクレアの学校生活に支障を与えてしまった。


 だから王都では問題なく学校に通えていると聞いて安心していた。


「でも、メルさんも王都を救った冒険者でS級冒険者だから俺のように盛り上がってもいいと思うが……なぜ俺だけ盛り上がってるんだ?」


 ふと疑問に思ったことを尋ねる。


「それはお姉ちゃんが怖いからです」


「メルさん、男を嫌ってるところが怖いって言われてるんだ。目つきの鋭さもあるから」


「あー、なるほど」


「なんで納得するのよ!」


 俺が納得したことに頬を膨らますメルさん。


「す、すみません!俺はメルさんのこと怖いだなんて思ってませんから!」


 そんなメルさんを見て、慌てて弁明する。


「安心してください、メル様。メル様は美人なので、カミト様ほどではありませんが、ファンはいらっしゃいますよ」


「わ、私は別にファンなんていらないわよ」


 と言いつつも、レオノーラのフォローを聞いて嬉しそうな表情となる。


(やっぱりファンがほしかったんだな。常にクールな振る舞いをしてるけど案外可愛いところもあるよな)


 そんなことを思う。


「さて、ここにいてはわたくし達が一緒にいる意味がなくなってしまいそうですわ」


「そうですね。速く移動しないと周りにいる生徒たちが集まって来ますよ」


「あ、リーシャたちは俺たちのもとに学生が来ないよう、抑止力となるために一緒に登校してくれたのか」


「はい。婚約者であるわたくし達……というより、王女であるわたくし達の邪魔をする生徒なんてほんの少ししかいませんから」


 冒険者学校では王女という身分を捨ててただの学生として過ごしているが、王女様として対応する人は多いらしい。


「では移動しましょう。わたくし達が先生のいらっしゃる部屋まで案内しますわ」


 とのことで、俺はリーシャたちの後を追った。




 リーシャに先生がいる部屋まで案内してもらう。


 そこで臨時講師についての詳しい仕事内容をメルさんと聞く。


「なるほど。先生方が選んだ数人でダンジョンに潜るんですね」


「はい。カミトさんは剣術をメインとした近接戦闘を。メルさんは魔法をメインに教えてほしいです」


 俺たちは若い女教師から説明を受ける。


 名前はフィーネさん。


 歳は分からないが、綺麗な顔立ちと服の上からでも分かるハリのある巨乳から20代後半と思われる。


「アタシもお二人のサポートはしますので、困ったことがあれば何でも聞いてください」


「「わかりました」」


 俺とメルさんは返事をする。


(仕事のできそうな方だから頼りになるなぁ)


 話しただけでそう感じさせる。


「では行きましょう。お二人に教えていただきたい生徒たちが待ってますので」


 そう言ってフィーネ先生は机に置いてあった紙を持ち、歩き始める。


 すると…


「あいたっ!」


 何もないところで盛大に転ぶ。


 持っていた紙を散らかすくらいに。


「「………」」


(えぇ。この人、自分の足につまずいてこけたんだけど)


 見事な転倒に絶句してしまう。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


「は、はい。これくらい日常茶飯事なので問題ありません」


 そう言って慣れた手つきで立ち上がり、服を整える。


(日常茶飯事というのもフォローになってない気が……)


 その後、道を間違え、入る教室を間違えつつ、10分かけて目的の教室にたどり着く。


「すみません。なかなか道を覚えることができなくて……」


「いえ、大丈夫です」


 と返答しつつも、どうやって今まで先生をしてたのか疑問に思う。


 そんなことを思いつつ、俺たちは目的地であった教室に入る。


 道中聞いた話によると、初回ということで生徒は5人。


 俺たちと面識のある実力者4名と、問題を抱えている生徒1人を今日から講師として担当するとのこと。


 どんな生徒かワクワクしながら教室に入り、生徒を確認すると、リーシャとレオノーラの婚約者2人とメルさんの妹のサヤ、それにセリアさんの妹のシャルちゃんと、黒髪を腰まで伸ばし、前髪は眼が隠れるくらいまで伸ばしている女の子がいた。


(見事に女子生徒しかいないなぁ)


「皆さんには昨日話した通り、今日から臨時講師として働くS級冒険者のメルさんとカミトさんです」


 フィーネ先生が俺たちを紹介する。


「ユメさん以外はカミトさんに会ったことがあると思いますが、改めて自己紹介をしましょう」


 とのことで自己紹介が始まる。


 リーシャとサヤさんが最高学年の17歳ということで、一言ずつ自己紹介をする。


「次はウチです!ウチはシャル、16歳です!カミトさんの婚約者であるセリアお姉ちゃんの妹です!」


 シャルちゃんとはドクサソリの毒で長い眠りについていたセリアさんを起こした時に出会っている。


 そして、しばらくセリアさんの家に住んでた時に遊んだりもしている。


「私は第二王女のレオノーラです。訳あって商人の学校から冒険者学校へ転入しました。実力はこのメンバーの中で最も低いので、カミト様やメル様からたくさん学ばせていただきます」


 シャルちゃんに続き、レオノーラさんも簡単に自己紹介をする。


 そして、最後に黒髪で目を隠している女の子が自己紹介を始める。


「ユ、ユメ。じ、16歳。よ、よろしくお願いします」


 自信なさそうな声色で俯きながら、ユメさんが自己紹介をする。


「皆さん、ありがとうございます。今日は今後の予定の確認と練習場での実技となりますので、メルさんやカミトさんからたくさんのことを学んでください」


 こうして臨時講師としての仕事が始まった。

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