第64話 4人目

 俺の想いをみんなに伝えた数日後。


 俺はとある人物を呼び出していた。


「はぁはぁ。ごめんね!遅くなっちゃった!」


「そんなことないぞ。俺も今来たところだから」


 俺は肩で息をしているソラさんへ声をかける。


「まずは息を整えようか」


「そ、そうだね」


 俺の促しにソラさんが深呼吸で呼吸を整える。


 しばらく待つとソラさんの呼吸が整い「もう大丈夫だよ!」との声がする。


「今日は誘ってくれてありがと!」


「こっちこそ、忙しいのに俺の誘いを引き受けてくれてありがとう」


 俺が【聖女】スキルを獲得するための条件を伝えた日から、ソラさんは忙しい日々を過ごしている。


 そんな中、俺の誘いを断らず、時間まで作ってくれたことに感謝しかない。


 そんなことを思っていると、ソラさんがモジモジしながら聞いてくる。


「え、えーっと……きょ、今日ってなんで私を誘ってくれたの?」


「ん?あぁ。それは俺がソラさんとデートしたかったからだ」


「ふえっ!」


 ソラさんが変な声をあげる。


「わ、私とデートしたかったの!?」


「そうだ。俺はソラさんとデートがしたかったんだ」


 俺が正直に告げると「そ、そうなんだ……」と言いながら顔を赤くする。


「で、でも、カミトくんってセリアさんやリーシャ様、レオノーラ様と婚約してるよね?こ、婚約者がいるのに私とデートなんてしたらダメだと思うけど……」


 このセリフは想定済みだ。


 ソラさんなら絶対言うと思ってた。


 だから、ソラさんが納得してくれる言葉をかける。


「今は婚約者なんて関係ないよ。俺はソラさんとデートしたいんだ。だから今日だけはセリアさんたちのことを忘れて俺とのデートを楽しんでほしいな」


「〜〜〜っ!」


 俺の言葉を聞いて、先ほどよりも顔を赤くする。


「う、うん。きょ、今日はカミトくんとのデートに集中するよ」


 照れながらも納得してくれる。


「よし!ならさっそく出発だ!」


「うん!」


 そう言って俺たちは街へ駆け出した。




 今日はソラさんと王都の街をぶらぶらする予定。


 俺とソラさんが街中を歩いていると…


「おぉ、聖女様だ」


「ソラ様は今日も可愛いなぁ」


「聖女様と一緒に歩いてるのってカミト様だよね!」


「英雄と聖女がデートしてるぞ!もしかしたら聖女様も英雄と婚約するかも!」


「おぉ!そうなれば聖女様も王都に残ってくれる!王都がより一層安全になるぞ!」


 等々、俺たちを見た人たちが盛り上がる。


「え、ソラさんって巷では聖女って呼ばれてるの?」


「う、うん。そうなんだ」


 ソラさんが照れながら答える。


「な、なぜ?スキルのことがバレたとか?」


「ううん!それはないよ!ただ私が教会で怪我に困っている人たちに無償で治療してたら、いつの間にか聖女って呼ばれてただけだよ!」


 ソラさんは完全な【聖女】スキルを得るために、『スライム5,000体討伐』と『傷を5,000回癒す』という条件をクリアしなければならなず、回復士のいる教会で働いている。


「なるほど。ソラさんが聖女と呼ばれる理由に納得がいくよ」


 本来、教会で治療を行う際は、回復士が少ないことから、かなりの金額が必要となる。


 だが、ソラさんは無償で治療を行なっていた。


 見た目の可愛さと優しさを兼ね備えたソラさんだから、聖女と呼ばれるようになったのだろう。


「私の私情でみんなの傷を癒すんだから、お金なんてもらえないよ。それに、傷が治った時の笑顔を見るだけで私は充分だから」


 ソラさんが治療した方の笑顔を思い出してか、嬉しそうな笑顔をする。


(傷を癒やした方から金をもらっても誰も文句は言わない。でも、ソラさんは無償で傷を癒やしている。ソラさんは素晴らしい女の子だよ)

  

 そんなことを思う。


「それで、条件クリアまでは後どれくらいなんだ?」


「それがクリアまでまだかかりそうなんだ」


 詳しく聞くと、『条件クリアまで後⚪︎回!』みたいなものがないため、自分で数えながらやるしかないらしい。


「スライム5,000体討伐はすぐに終わったんだけど、傷を癒す条件が全然クリアできなくて」


 ソラさんが持つ【聖なる癒し】は魔力を使って行うスキルだ。


 魔力は無限にあるわけじゃないので、傷の程度にもよるが、150人くらい癒すと魔法が使えなくなるらしい。


「だから条件クリアまで、あと15日はかかると思う」


 俺が条件を教えてから15日経っている。


 つまり条件クリアまで30日必要ということだ。


「うわぁ。思った以上にキツイ条件だったか」


「でも、あと15日で終わるよ!そしたらカミトくんの役に立てる……ううん、横に立って一緒に戦えると思うの!」


 その言葉からソラさんの決意を感じる。


(ソラさんは俺と一緒に戦うために条件をクリアしようとしてくれてるのか。だが…)


 ――【聖女】スキルなんてなくても、俺はソラさんにはずっと隣にいてほしい。


 その想いを伝えるため、あらかじめ決めていた場所にソラさんを誘う。


 そこは高台となっており、王都の街が一望できる場所。


 歩いて30分ほどかかる場所だが、ソラさんと談笑しながら歩いたため、あっという間に辿り着いた。


「へー!こんな場所があったんだ!」


 ソラさんが街を一望しながら呟く。


「王都にずっと住んでたけど、初めて知ったよ!」


 偶々見つけることができた場所だが、俺も初めて見た時はソラさんのような反応をした。


 しばらくソラさんと一緒に王都を一望する。


 そして俺は口を開く。


「今日はソラさんに伝えたいことがあるんだ」


「伝えたいこと?」


「あぁ」


 俺は真剣な表情で頷き、一拍置く。


 そして想いを告げる。


「俺はソラさんが好きだ」


「………え?」


 ソラさんが固まる。


「俺はソラさんの表情豊かなところや優しいところが好きだ。これからの人生、ソラさんとも一緒に過ごしたいと思った。ソラさんのことも守りたいと思った」


 ここで一度言葉を切る。


「ソラさん、俺と婚約してください」


 俺はソラさんに想いを告げる。


「いいの?私って他の婚約者たちよりも可愛くない……」


「そんなことない!」


 俺はソラさんの言葉を途中で遮る。


「ソラさんは可愛い!俺が好きになるくらい可愛いんだ!だから自信を持ってほしい!」


「そ、そうなんだ……」


 ソラさんの目には涙が溜まる。


「私もカミトくんのことが好きだよ。本当は聖女になる条件をクリアして、カミトくんの横に立てるようになってから告白しようと思ったけど、先に言われちゃった」


 ソラさんが「えへへ……」と涙を流しながら笑う。


 そんなソラさんを見て、俺は再度想いを告げる。


「ソラさん。俺の婚約者になってください」


 俺の言葉を聞いたソラさんは、今まで見たことのない眩しい笑顔で…


「はい!喜んで!」


 俺の告白を受け入れた。

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