第42話 王女様からのお願い 2

 真剣にお願いするリーシャ様と、泣きながらお願いするレオノーラ様を見て困惑する俺。


「待って!2人になにがあったの!?」


 俺の心の声を代弁するようにメルさんが声を上げる。


「少し長い話になりますが、よろしいでしょうか?」


 リーシャ様の問いかけに俺たちは無言で頷く。


「ありがとうございます」という前置きの後、リーシャ様が話し始める。


「この国はお父様が亡くなってからヴェール家の力が弱くなりました」


 王都は代々、ヴェール家の人間が国王となり王都を治めていた。


 だが、数十年前に国王様が亡くなったことで、ヴェール家の血を引き継いでいるのがリーシャ様とレオノーラ様だけになった。


「お父様が亡くなった時、わたくしは5歳でレオノーラは3歳。本来ならわたくしが国を治めなければなりませんが、5歳のわたくしには何もできず、お母様が女王陛下となって国を治めました。ですが国の治め方を小さい頃から学んできたお父様とは違い、お母様は上手く治めることができませんでした」


 そのため、周りの重鎮たちの手助けを借りて王都を治め続けていたが、月日が経つに連れて女王陛下は王都の重鎮たちに従うだけの操り人形となってしまった。


「ある日、お父様を長年支えていたワルダック宰相から、とある提案をされました」


――ヴェール家の血筋を引き継いでいる人間が少ない。はやくリーシャ様とレオノーラ様に結婚させないと。


「確かにヴェール家の血筋が途絶えるのは問題です。はやく結婚して子供を産ませなければならないことも理解できます。だからお母様は否定できなかった。そしたら、ワルダック宰相が婚約の話を持ちかけてきました」


――リーシャ様が15歳になったら私の息子と結婚させましょう。そして、次期国王陛下となる男の子を産んでもらいましょう。


「わたくし達……いえ、少なくともわたくしは王都以外の国へ嫁に行くわけにはいきません。そのため、必然的に王都内で地位のある方と結婚しなければなりません。そしてワルダック宰相は王都でかなりの地位を持っております。そのため、周りの重鎮からもその結婚を後押しされました」


「なるほど。ここまでの話は理解しましたが……リーシャ様が宰相の息子と結婚すれば問題ないと思いますが……」


「はい、カミト様の仰る通りです。ですが、ワルダック宰相の息子とだけは結婚したくありません」


 その言葉に強い意志を感じる。


 本気で宰相の息子とは結婚したくないことが伝わってくる。


「ワルダック宰相の息子は最低な人間です」


 そう言ってリーシャ様はワルダック宰相の息子を語り始める。


「領地内で息子に反抗した人は皆殺しにして、領地内の女は俺の物といって無理やり連れて帰ります。そして、口には出せない暴行や淫行を繰り返してます」


「なっ!」


 想像以上に酷い内容で、俺は言葉を失う。


 メルさんは驚いていないことから、宰相の息子の悪行は知っていたようだ。


「他にも色々とありますが、これらの問題を息子が起こし、領主であるワルダック宰相が揉み消しています」


「それが分かってるなら罰することも!」


 俺の問いかけにリーシャ様は首を横に振る。


「宰相はお母様やわたくし、レオノーラに次いで権力があると言っても過言ではありません。しかも宰相に味方してる重鎮が多く、罰することができません」


「………つまり、この国はワルダック宰相が手綱を握ってるということですね」


 その言葉にリーシャ様が頷く。


 女王陛下は重鎮たちの操り人形となり、宰相に味方している重鎮が多い。


 つまり、王都はワルダック宰相が治めていることになる。


「わたくしはあの人と結婚したくありません。お母様のおかげで結婚する歳を15歳から18歳まで引き伸ばしていただきましたが、現在17歳であるわたくしは後1年であの人と結婚することになってしまいます。都合の良いことだとは思ってますが、わたくしと結婚してください」


 リーシャ様が頭を下げる。


「あ、頭を上げてください!なぜ俺なんですか!?俺以外でもよかったはずです!」


「いえ、わたくしにはカミト様しかおりません。理由は宰相の息子より権力のある人がいないからです」


「なるほどね、だからカミトしかいないのね」


 すると、今まで黙っていたメルさんが話に入ってくる。


「S級冒険者であるカミトが第一王女と結婚しても誰も反対しない。むしろ、国民からは誉められるわ」


「はい。カミト様がわたくしと結婚することになれば、カミト様は王都から出ることはなくなります。最強の冒険者を王都に常駐することができるとなれば、国民は喜びます」


「えーっと、つまり……」


「リーシャを助けるならカミトがリーシャと結婚するか、ワルダック宰相たちの悪事を公にするしかないってことよ。仮にカミトがリーシャとの結婚を選んだ場合、レオノーラが宰相の息子と結婚することになるから、カミトは2人と結婚した方がいいってことになるわね」


「………マジかよ」


 俺はメルさんの言葉を聞いて現状を把握する。


「カミト様がS級冒険者だから結婚をお願いしたわけではありません!心が綺麗でメル様からも信頼されているカミト様なら、わたくしと結婚して王族になっても問題ないと思ったからお願いしております!どうか、わたくしと………いえ、わたくしとレオノーラ、2人と結婚してください!」


「カミト様、お願いします!リーシャお姉様を助けてください!」


 2人から頭を下げられる。


 2人の熱意を感じて了承したくなるが、簡単に決めれることではないので俺は返答できず固まる。


 すると、“コンコン”と扉をノックする音が聞こえてくる。


「リーシャ様、そろそろカミト様が国民の皆様へ挨拶するお時間となります」


 部屋に入ってきたメイド服の女性がリーシャ様に話しかける。


「わかりました。すぐに向かいますわ」


 リーシャ様はメイド服を着た女性に一声かける。


「カミト様。わたくしの話、前向きに考えていただけると嬉しいですわ」


 そう言って俺に一礼した後、リーシャ様とレオノーラ様は部屋を出た。

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