第35話 S級ダンジョンの攻略 6

 メルさんが気合の入った声とともに扉を開ける。


 すると、俺と同じ程度の背丈をしている1人の黒い騎士が立っていた。


 真っ黒な鎧を身につけて、黒色の剣と黒い盾を持っている。


 その騎士が俺たちに気づき、視線を俺たちに向ける。


「っ!」


 その眼を見た途端、メルさんが息を呑む。


 そしてメルさんの身体が震え出す。


(もしかして【威圧】か!)


「メルさん!大丈夫ですか!?」


「え、えぇ。ちょっと武者震いしてるだけよ」


 そう言って強がるメルさん。


(レッドドラゴンの【威圧】には耐えてたんだ。ってことはこの騎士、メルさんよりも格上なんじゃ……)


 そう思い、賢者さんにお願いして黒い騎士を鑑定してもらう。



*****


名前:黒の騎士 No.8

レベル:7500

筋力:25000

器用:25000

耐久:25000

俊敏:25000

魔力:25000

知力:25000


スキル:【威圧】

    【透明化】

    【悪夢】


装備:漆黒の長剣

漆黒の鎧

漆黒の盾


*****



「嘘だろ……」


 ブラックドラゴンなんか比じゃないレベルのステータスが現れる。


 俺はステータスで騎士に劣っていないため、【威圧】は効かなかったが、メルさんは騎士よりもステータスが劣っていたことで、【威圧】の効果を受けている。



ーーーーー


【威圧】


 自分よりも劣っているステータスが3つ以上ある敵の動き•判断力を鈍らせる。


ーーーーー



(どうする!メルさんは騎士よりも劣っているステータスが3つ以上あるんだ!ここへ来るまで行っていた連携は難しい可能性がある!)


 動き•判断力を鈍らせるという効果がどのような影響を与えるか分からないため、メルさん頼みの戦術は難しく、戦術の幅が狭くなってしまう。


 すると、突然騎士の姿が消える。


「「!?」」


 一瞬で消えた騎士を見て瞬時に【透明化】のスキルを使用したと思いつく。


「メルさん!【透明化】のスキルを使われました!足音や鎧の音を――」


 と、指示を出すが一歩遅く…


「いやぁぁぁぁぁぁっ!」


 メルさんが大声で発狂しながら、その場に崩れ落ちる。


 その隣には【透明化】の切れた騎士が立っており、メルさんに追撃しようとしていた。


「っ!」


 突然メルさんが発狂した理由はわからないが、メルさんの体勢から防御することは不可能だと思い、俺は急いで騎士とメルさんの間に入り込む。


 “キンっ!”という音が響き、なんとかメルさんへの攻撃を防ぐことができた俺は、剣に力を入れて騎士を押し返す。


「ふんっ!」


 そして急いでメルさんに駆け寄る。


「メルさん!しっかりして――」


「こ、来ないで!」


 しかし、そんな俺をメルさんは後ろに下がりながら拒絶する。


 しかも、その眼は俺のことを恐怖の対象と捉えているようだ。


「お、男がいる……怖い……」


「っ!」


 その発言と俺のことを恐怖の眼で見つつ全身を震わせていることで全てを察する。


「賢者さん!奴の【悪夢】ってスキルを調べて!」


『了解しました』


 俺の言葉に反応した賢者さんが【悪夢】を鑑定してくれる。



ーーーーー


【悪夢】


 触れた対象に過去のトラウマをフラッシュバックさせる。ステータスの差によって成功率は変化する。


ーーーーー



「これかっ!」


 想像通りのスキルだった。


「男嫌いになった原因がフラッシュバックし、俺のことを男としか認識してないってことか!」


 俺は動かず高みの見物をしている騎士を見据えつつ分析する。


 動かないのならなら好都合だと思い、ついでに【透明化】のスキルも鑑定してもらう。



ーーーーー


【透明化】


 3秒間だけ透明になれる。ただし、音を消すことはできず、使用した後は10秒間使用できない。


ーーーーー



「3秒か。戦いの中での3秒は厄介だぞ」


 だが、音を消すことはできないので、足音や鎧の音で戦うことはできる。


 それに俺には【賢者の眼】によって3秒先の未来を見れる未来視がある。


 騎士の分析を終え、全く動かない騎士を放置してメルさんを助けることに重点を置く。


 俺は賢者さんに騎士の動きに注意してもらい、メルさんに近づく。


「メルさん。カミトですよ」


 危害を加えないことをアピールするため、優しい笑みを浮かべてメルさんに近づく。


「やめて!来ないで!」


 しかし、メルさんの震えや恐怖の眼は治らない。


「メルさん。俺のことを覚えてますか?俺たち、今日一緒にダンジョンを探索したんですよ?」


 次に今日の出来事を思い出してもらおうと語りかける。


「し、知らない!」


 しかし、これでもメルさんは思い出してくれない。


「お願い!これ以上はやめて!私の身体はどうなってもいいから妹には手を出さないで!」


「っ!」


 その言葉を聞いて心が痛む。


 おそらく、メルさんが男嫌いになった原因の男を俺と勘違いしてるようだ。


「奴隷にもなる!何でもする!だから妹には手を出さないで!」


「メルさん!」


 俺はメルさんとの距離を詰め、メルさんを抱きしめる。


「俺はそんなことをしない!思い出して!メルさん!」


「い、いや!やめて!放してっ!」


「かはっ!」


 メルさんの渾身のパンチが俺の腹に決まる。


 S級冒険者のパンチを防御なしで喰らった俺はダメージを殺し切れず吹き飛ばされる。


「痛ってて……」


 今ので肋骨が数本折れただろう。


 口からも血を吐き、かなりのダメージを負ってしまう。


 だが、俺は再びメルさんに歩み寄る。


「メルさん。俺は絶対にメルさんを傷つけません。どれだけ殴られても絶対に」


 優しい笑みと優しい声色で危害を絶対に加えないことをアピールする。


「こ、来ないで……来ないでーっ!」


「メル!」


「ひっ!」


 来ないでとジタバタしてたメルさんに「メル!」と強い口調で名前を呼ぶと、“ビクっ!”として動きが止まる。


 そんなメルさんへ俺は優しく抱きしめる。


「俺は絶対にメルを傷つけない。むしろ、メルのことを傷つけようとする奴は俺が必ず粛正する。これからは俺がメルを守るから」


 俺が本心で想っていることを伝え、ぎゅーっと抱きしめる。


 すると、俺のことを思い出したのか…


「カミ……ト……」


「メルさん!」


 恐怖で身体を震わせることなく、俺の名前を呼ぶ。


「怖かった。カミトが助けてくれたのね。ありがと……それとごめ……ん」


 そう言って“バタっ”と倒れる。


 どうやらフラッシュバックでの精神的ダメージが大きく、気を失ってしまったようだ。


 そんなメルさんを優しくお姫様抱っこして壁の端へ寝かせる。


「メルさん、少し休んでてください。俺がすぐに終わらせますから」


 俺はメルさんの頭を優しく撫でる。


「カミ……ト……ごめん……」


 どうやら俺を殴ったことを覚えてるようで、気を失った状態でも謝ってくる。


「夢の中でまで謝らなくていいですよ」


 俺は再びメルさんの頭を撫でる。


 すると、俺の声が届いたのか、メルさんの表情が和らぐ。


「ゆっくり休んでください」


 俺はメルさんに一言かけた後、騎士に視線を移して言い放つ。


「許さねぇ。お前は俺の手で殺す!」


 俺は騎士に向けて闘志を燃やした。

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