第26話 目覚めるセリアさん
俺たちは王都について早々、セリアさんへ会いに行くこととなる。
「まずは調合が得意な知り合いのところに寄るよ。そこでセリアさんが侵されている病、ドクサソリの解毒剤を作ってもらうんだ」
とのことで、ソラさんについていく。
「見て!お兄ちゃん!すごく美味しそうなパンがあるよ!」
「リブロでは見たことがないパンだな。真ん中に穴が空いてるし」
「あ、あれは“ドーナツ”って言うんだよ。パンじゃなくてお菓子なんだ」
「へー。パンじゃないんだ」
「王都ってすごいね!」
そんな話をしながら移動中は街並みを見て楽しむ。
「着いた!私はここで調合をお願いしてくるから、この辺りをぶらぶらしてて良いよ!」
「よし!じゃあ、“どーなつ”ってやつを食べに行こうぜ!金はたくさんあるからな!」
「おー!お兄ちゃん、太っ腹だね!」
俺の懐にはブラックドラゴンの魔石を換金した時に得たお金、白金貨10枚がある。
(改めて思うけど、白金貨10枚ってヤバいよな。仕事してる人の年収が白金貨0.5枚分だから、20年分の稼ぎを1日でしてしまったわけだ。さすがS級モンスターの魔石だな)
そんなことを思いつつ、俺は先ほどの“どーなつ”を食べに行く。
「おじさん、“どーなつ”を2つお願い」
「あいよ!ドーナツ2つ!」
俺はおじさんから“どーなつ”を2つもらう。
ちなみに味は“ぷれーん”と書かれていた。
「ほい、クレア」
「ありがと、お兄ちゃん!」
そしてクレアに“どーなつ”を1つ渡す。
「「いただきまーす!」」
俺たちは同時に“パクっ!”とかぶりつく。
「んー!美味しい!」
「あぁ!何個でも食べれそうだ!」
そう言って俺たちはあっという間に食べ終わる。
「美味しかったー!こんなに美味しいお菓子は久々に食べたよ!」
その言葉に申し訳なさを感じる。
(リブロでは貧乏な生活をしてたから、クレアにお菓子を食べてさせてなかったな)
そのため、「おじさん!もう1個“どーなつ”をください!」と言って、おじさんにもう1つ注文する。
「あいよ!」
「お兄ちゃん!?」
貧乏性が染み付いている俺が、もう一度贅沢品であるお菓子を買うとは思わなかったのか、クレアが驚きの声をあげる。
そんなクレアを無視して、俺はクレアに“どーなつ”をあげる。
「クレアには今までお金がなくて色々と不便をかけたな。これからはお兄ちゃんがたくさん稼ぐから、我慢せずに欲しい物は欲しいって言っていいぞ」
「お兄ちゃん……」
俺の想いが伝わったのか、クレアは“どーなつ”を受け取る。
「確かにリブロではお金がなくて欲しい物を何度も我慢したよ。だけどお兄ちゃんが側にいてくれたからすごく幸せだった。だから、欲しいものが手に入らなくても私は不便なんて思わないよ。むしろ、欲しいものが何でも手に入る生活より、お兄ちゃんやソラさん、ルーリエさんにソフィアさんと一緒に楽しく日々を過ごしたい」
そう言って、俺が渡した“どーなつ”を半分に割る。
「だから、稼いだお金で私に貢いだりしないでね!」
そして、半分になった“どーなつ”を1つ渡してくる。
(そうか。クレアはリブロで不便な生活をさせてしまったことに責任を感じるなって言ってるのか)
リブロで不便な生活を送る原因になったのは俺の稼ぎがほとんどなかったからだ。
そのため、冒険者として稼ぐことができるようになった俺は、張り切ってクレアに貢ぐ予定だった。
「わかった。お金は大切に貯金するよ。だが、欲しい物があったらお兄ちゃんに言うんだぞ?お兄ちゃんがどんな物でも買ってやるからな」
「………はぁ。私の話、聞いてないね。全く、いつになったらお兄ちゃんは妹離れできるんだろ」
「………」
(お前、毎夜俺に抱きついてるからな?物理的に兄離れできてないからな?)
そう思ったが、口には出さない俺であった。
その後、“どーなつ”を食べながらソラさんと別れた場所に戻ってくる。
「あ、おかえりー!」
「ごめん、ソラさん。遅くなってしまったよ」
「ううん、気にしなくていいよ!じゃあ、調合も終わったし、セリアさんの家に行くよ!」
とのことで、俺たちはセリアさんの家を目指す。
しばらく歩くと一軒の家にたどり着く。
「ここがセリアさんの実家。そして、セリアさんが寝てる場所」
道中にセリアさんの状況を聞くと、セリアさんがドクサソリの攻撃を受けて寝込んだのはソラさんが王都を出発する1日前とのことで、セリアさんは約15日ほど寝込んでいることになる。
ソラさんが“コンコン”と玄関のドアをノックして「ごめんくださーい!」との声をあげる。
すると、「はーい!」との返事と共に1人の女の子が現れる。
「あ、ソラさん!」
「こんにちは、シャルちゃん」
家の中から現れた女の子はアムネシアさんと同じ黒髪をショートカットにしており、右眼周辺に泣きぼくろがみられる。
おそらく、クレアと同い年だろう。
「お母さーん!ソラさんが来たよー!それと知らないお兄ちゃんとお姉ちゃんも!」
「はーい」
そして今度はアムネシアさんの面影を感じる女性が現れる。
一目見ただけで、この人はアムネシアさんの娘だと感じる。
(ってことはこの子はアムネシアさんのお孫さんか。そういえば俺たちくらいの年齢の孫が2人いるって言ってたな)
「ソラちゃん、おかえり。リブロから帰って来たのね。今日もセリアに回復魔法を?」
セリアさんが侵されているドクサソリの毒を緩和させ、進行を遅らせるには毎日の回復魔法が大事だと言われている。
ソラさんは自分のせいでセリアさんが寝込んでしまったと思っているため、毎日欠かさず回復魔法をセリアさんにしていたようだ。
「いえ、今日は『希望の花』が見つかったのでセリアさんを助けに来ました」
「ほんと!?なら、はやく上がって上がって!そちらのお2人も!」
「あ、はい。お邪魔します」
まだ自己紹介を済ませていないが、セリアさんを助けることができると聞いたお母さんは自己紹介を省いて俺たちを家にあげる。
「すみません。私が不甲斐ないせいでセリアさんがドクサソリの攻撃にやられてしまい……」
「ソラさん!その話はもう何百回も聞きましたよ!ウチらに謝る必要なんてないんですから!」
「そうね。何百回とは言わないけど、来るたびに謝らなくてもいいのよ。私たちはソラちゃんが悪いと思ってないから。むしろ仲間を守ったセリアが誇らしいわ。それに『希望の花』ならソラちゃんが必ず見つけてくれると信じてたから」
「え、えーっと、私が見つけたわけじゃないんですが……私は悪くないと言っていただき、ありがとうございます」
その言葉を聞いて心が軽くなったのか、ソラさんの目には涙が浮かぶ。
アムネシアさんの血を引き継いでいるからだろう。自分が原因でセリアさんが寝込んでいると言っているソラさんを誰1人責めない。
(アムネシアさんの優しさをそのまま受け継いでるやん)
その対応に俺は感激する。
「さっき、ソラさんがお願いしていた治癒士が来て、セリアに回復魔法を施してたわ。おかげで表情も穏やかよ」
そんな会話をしつつ廊下を歩き、1つの部屋にたどり着く。
その部屋に促されて入室すると、左眼に泣きぼくろがある綺麗な女性が眠っていた。
「セリアさん。これを飲んで目を覚ましてください」
そして、ソラさんが先ほど調合したものをセリアさんに飲ませる。
その様子を俺たちは固唾を飲んで見守る。
しばらく無言の時間が続くと…
「んん……」
との声とともに、セリアさんが目を覚ます。
「セリアっ!」
「お姉ちゃん!」
目覚めたばかりのセリアさんに、お母さんと妹ちゃんが抱きつく。
「うっ、重い。暑苦しい。そして邪魔」
まさかの邪魔発言。
「あははっ!セリアさんらしいですね!」
そう言って笑うソラさんは涙を流している。
(良かった。無事にセリアさんを救うことができたんだな)
涙を流すソラさんとお母さん、妹ちゃんを見て、そう思った。
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