第17話 報酬

 俺は上昇したステータスから目を逸らし、座り込んでいる女の子へ話しかける。


「剣、ありがと。君が剣を貸してくれたおかげで勝てた……って、どうしたの?」


 俺が話しかけているにも関わらず、女の子は“ポカーン”としていた。


「も、もしかして怪我が悪化した!?ど、どうしよ!?あっ!俺の格安ポーションを使ってもらえば……」


「だ、大丈夫です!傷はかすり傷ばかりなので!」


 ようやく俺のことに気づいた女の子は俺の前で手をブンブン振り、大丈夫なことをアピールする。


「よかったぁ。俺、格安ポーションしか持ってないから、重い怪我だと治らないし」


「ふふっ、心配してくれてありがとうございます。あっ!そうです!危ないところを助けていただき、ありがとうございました!」


「いえいえ、無事に助けることができてよかったよ」


 俺は女の子のお礼に応えるように笑顔で返事をする。


「自己紹介がまだだったな。俺はカミト。18歳だ」


「あ、同い年なんですね!私は『ソラ』、18歳です!普段は王都で活動してます!一応、ランクAに分類されるモンスターならソロで戦える実力も持ってます!」


「へー、俺と同い年なのにすごいな。って、同い年に敬語なんてしなくていいから」


「あ、そうだね。なんかカミトくんは年上って感じがしたので。って、私よりもカミトくんの方が断然すごいよ!ブラックドラゴン相手に無傷で勝つ人なんて聞いたことがないからね!」


「た、確かに……」


 指摘されて自分がやったことの凄さを実感する。


「でもブラックドラゴンを無傷で倒すほどの実力者なら名前くらいは聞いたことありそうだけど、カミトくんの名前は聞いたことないんだよね」


「あ、それは俺が最近までスライムしか倒せないくらい弱くて表に出るような実力者じゃなかったからだ。ソラさんが知らないのは当然だよ」


「………なかなか面白い冗談だね!」


「………」


 冗談じゃないんだけど。


「あれだよね!実力隠してて、ついにバレちゃったー!みたいな展開だよね!?」


「違うって!本当に弱かったんだよ!」


「またまた〜!つい最近まで実力なくて無名だった冒険者が、ここ何日かでブラックドラゴンを無傷で倒せるなんてあり得ないよ!そんな人がいるなら見てみたいくらいだね!」


「目の前!目の前にいるから!今ガッツリ見てるから!」


 どうしても俺を『実力を隠した冒険者』という風にしたいらしい。


「この実力がバレたらカミトくんはSランク冒険者の仲間入りだね!」


「いやいや、さすがにSランク冒険者にはなれないだろ」


「なに言ってるの!Sランクモンスターを1人で倒したらSランク冒険者の仲間入りだよ!」


 一般的にSランクモンスターを1人で討伐した者はSランク冒険者と呼ばれるようになるが、他にもいろいろと条件があるらしい。


「でも俺って一昨日までスライムしか倒したことなかったんだぞ。そんな奴がブラックドラゴンを一人で討伐したとか信じてくれる奴いると思うか?」


「え、それってカミトくんの冗談じゃないの?」


「マジな話なんだよ」


「………無理な気がするね」


 俺が嘘をついていないと思ったソラさんも俺と同意見のようだ。


「だから俺がSランク冒険者になるのは無理なんだよ」


「うーん……あっ!なら私が証人になるよ!倒したことはブラックドラゴンの魔石で証明されるから、あとは私がカミトくん1人で倒したことの証人になれば問題ないよね!」


「それで話が済めば良いんだけどな。てか、俺たち2人が討伐したって報告すれば……」


「私は手柄を横取りなんてしたくないから、それは無理だね!」


「………」


 ものすごく可愛い笑顔で拒否された。


「じゃ、じゃあ、証人よろしく」


「うんうん!任された!ってなわけで魔石を回収して帰ろー!」


「そうだな」


 俺たちはドラゴンの魔石を拾うため、魔石のある場所へ足を運ぶ。


 そしてオーガの魔石と比べ何倍も大きい魔石を手に取る。


「でかっ!」


「私もSランクモンスターの魔石は初めて見たけど、ここまで大きいとは思わなかったね」


 ソラさんも魔石の大きさに驚いているようだ。


「とりあえず俺が持って帰るよ。換金額は半分こでいいか?」


「えっ!私はいらないよ!?さっきも言ったように手柄を横取りなんてしたくないからね!」


「いや、そうは言っても……」


「こればかりは私も譲れないよ!私は命が助かっただけで十分なんだから!」


「そ、そうか。なら俺が全額貰うよ」


 そんな話をしつつボスを倒した時に出現するワープゾーンへ足を踏み入れる。


 ワープした先に到着すると、そこには1つの宝箱が用意されていた。


「あれ?出口に繋がってないのか?」


「どうやらここは報酬部屋のようだね」


「報酬部屋?」


「うん。稀にだけど何かの条件を満たすとワープ先が出口じゃなくて、宝箱のある部屋へとつながることがあるんだ」


「へー、知らんかった」


 スライムしか倒したことのない俺には縁のない話だったから、聞いてすぐに忘れたんだろう。


 そんなことを思いつつ、俺は宝箱を開ける。


「おぉ!黒い剣に黒いコート、それと黒い靴だ!」


「これ、きっとレア装備だよ!」


 俺と共にソラさんもテンションが上がる。


「じゃあ、装備はどうやって分ける……」


「だから私は要らないよ!カミトくんに全てあげるって!」


「あ、はい。ありがたくいただきます」


 またしても強い口調で断られ、俺は3つの装備を手に入れる。


 そして鑑定して1つ1つアイテムを確認する。



ーーーーー


【純黒の長剣】


 ブラックドラゴンの鱗から作られた純黒の長剣。軽くて丈夫な材質でできており、刃こぼれすることはない。また、全ステータスが2000上昇する。


ーーーーー


【純黒のコート】


 ブラックドラゴンの鱗から作られた純黒のコート。軽くて丈夫な材質でできており、コートが汚れることはない。また、全ステータスが2000上昇する。


ーーーーー


【純黒の靴】


 ブラックドラゴンの鱗から作られた純黒の靴。軽くて丈夫な材質でできており、靴が汚れることはない。また、全ステータスが2000上昇する。


ーーーーー



(oh…すごい装備を手に入れてしまった。これだけでも破格の装備なのに、俺がさっきゲットした〈無傷の冒険者 Lv.5〉で装備が強化され続けるんだろ?ヤバすぎるな)


 そんなことを思いつつ、俺はソラさんと宝箱の先にあるワープゾーンへ入り、ダンジョンを出た。

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