第3話
でも、幸せは本当に一瞬だった。
彼のご挨拶に顔を赤く染め上げたのも束の間、わたくしは窓の外に見つけてはいけないものを見つけてしまった。
真っ黒な服に身を包み、木の上で気配を消す暗殺者を———。
それからは無我夢中で何が起こったのかはあんまり覚えていない。ただ、目の前の婚約者に風の魔法が展開されたのを見て、驚いて、咄嗟に前に飛び出て、左目に激痛が走り、顔の左半分に信じられない熱さが走ったのだけは覚えている。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そしてその瞬間、謁見の間に響き渡るほどの絶叫をしながらわたくしはわたくしの前世を思い出した。
過労死寸前のブラック企業の社畜であった前世のわたくしは、乙女ゲームというなんとも少女チックな趣味に縋り付いて生き延びていた。けれど、最後の最後は趣味というブーストでも過労には耐えられず、パソコンのキーボードの上に泡を吹いて死んでいった。
それと同時にわたくしはもう2つのとんでもないことを思い出した。
1つはこの世界が前世で最後にプレイした、ビジュがえげつなくいい乙女ゲームの世界だということだ。これには舞い上がって喜ぶしかないと思った。
けれど、わたくしは同時にもう1つ最悪なことを思い出してしまった。それはわたくしが最低最悪と呼ばれる『悪役令嬢』に生まれ変わったということだ。
悪役令嬢エリザベート・ラ・ツェリーナは、王太子レオンハルトを庇い暗殺者に左目を傷つけられたことによりレオンハルトに結婚を迫り、レオンハルトを脅し続ける最低最悪の外道悪役令嬢だ。
自分の美を極めることしか頭にない彼女は、自分の婚約者であるレオンハルトのことをアクセサリーにしか思っていなかった。それを分かっていてなお、気づいていてなお、彼はその強い責任感から傷物にしてしまったエリザベートを嫌って嫌悪していながら、エリザベートを婚約者としてそばに置いていた。
なんとも健気なお話だ。前世のわたくしはそんなレオンハルトに惚れたのを覚えている。
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