少女不具合
キングスマン
少女不具合
「フェロモンって
ヨシカちゃんのお
「知ってます」
僕は
だけど
ヨシカちゃんのお姉さんは、くすっと
僕の嘘なんてお
「じゃあフェロモンには、いくつ
「種類?」
僕がフェロモンを知らないことがバレてしまった
だけどヨシカちゃんのお姉さんは僕の
「
ヨシカちゃんのお姉さんは
「せいよく?」
またしても僕は聞き返してしまいました。
「ああ、きみには少し
「へえ」
「でもそれだけじゃなくてね、みんなを
「
「できるよ。
「?」よくわからない言葉でした。
そもそも、僕はいつまでこうしてヨシカちゃんのお姉さんとおしゃべりをしていればいいのでしょうか。
僕はすごく
だけどヨシカちゃんは、タツヤくんも誘っているから
僕はどこか
タツヤくんは僕と
僕もタツヤくんはいい
でも
だけどヨシカちゃんと
チャイムを
僕はみんなよりヨシカちゃんについて
リビングに
ヨシカちゃんに近づくと、いい
そしてヨシカちゃんのお姉さんは、僕にフェロモンの話をはじめたのでした。
「ところでお姉さん、ヨシカちゃんはどうしていますか?」
そろそろヨシカちゃんに会いたくなって、僕はヨシカちゃんのお姉さんにヨシカちゃんの
「ヨシカは
「もしかして、タツヤくんですか?」
自分でも少し
「そうそう。タツヤくん、タツヤくん」
「
僕はものすごく
「うん? どこにもいってないよ? 二人はここで虫を
「え? ここで?」
僕の
「だからきみにも、はい」
そういって、ヨシカちゃんのお姉さんは僕に
「これは?」
「
「虫はどうなりますか?」
「
「わかりました」僕は、こくんとうなずきます。「ところで、どうして家に虫が?」
「パパが
「ああ、なるほど」
ヨシカちゃんのお父さんは
「それじゃあ、がんばってみつけてね。たくさんみつけたらきっとヨシカも喜ぶと思うよ」
「わかりました」
僕は、ゆっくりうなずきます。本当は
ヨシカちゃんに喜んでもらえたら、ヨシカちゃんは僕を好きになってくれる気がします。
「あ、それから、そんなことしないと思うけど、人には刺しちゃダメだよ?
わかりましたと簡単に返事をして、僕は走り出します。
どちらも見たことのない
僕はカブトムシが
いつもだったらじっと
チク、チク。
そっと
チク。
チク。
トイレの前に立って、とても
トイレから少しだけ
部屋のドアが見えます。
『yoshika』
僕は自分に
ヨシカちゃんのお姉さんから、家の中に
きっと、ヨシカちゃんの部屋にだっているはずです。
だから僕は、そっと、そおっと、ヨシカちゃんの部屋の
タツヤくんです。
もぞもぞと
僕はタツヤくんに
だけど、やめました。
タツヤくんは太っているけど、
それにタツヤくんは僕より
それは
チク。
だから僕はタツヤくんの
ピクっと
これで公平になりました。
僕はヨシカちゃんの部屋から出て、虫探しを
そういえば、ヨシカちゃんはどこにいるのでしょう。
ヨシカちゃんの家はお
僕は
どこか
リビングに戻ると、ヨシカちゃんのお姉さんは、いっぱい見つけてくれてありがとう、と
僕は嬉しかったです。
ヨシカちゃんのお姉さんに褒めてもらえたからじゃありません。
ヨシカちゃんのお姉さんの隣に、ヨシカちゃんがいたからです。
どこか眠たそうな目をしたヨシカちゃんは、
ヨシカちゃんは、どこかぼんやりした声で僕の名前を呼んで「ありがとう」といってくれました。
それからヨシカちゃんはワンピースの
そしてヨシカちゃんは、僕が
僕はどきりとして、びっくりもして、体が
ヨシカちゃんは僕に近づいて、ぎゅっと
顔と顔が近い。
僕は何も考えられなくなって、もっと顔を近づけて、大人になってすることをヨシカちゃんにしました。
そこでヨシカちゃんの
僕はヨシカちゃんに
服を着ていないヨシカちゃんは
お
そこで、誰かが僕の
「いいんだよ、きみの好きにしてくれて」
ヨシカちゃんのお姉さんの声でした。
僕は
ヨシカちゃんのお姉さんはヨシカちゃんのお姉さんなので、ヨシカちゃんより
だから僕は
そうしているうちに、すごく知らない
「ありがとう」
頭の上からヨシカちゃんのお姉さんの声がします。
どうして褒めてくれたのかわかりません。起きたら聞いてみたいと思います。
◇翌日のウェブニュース
【人気動画配信者、自宅で無理心中? 事故か? あるいは事件か?】
ファーブル先生の愛称で親しまれている昆虫学者の
亡くなっていたのは佳孝さんと妻の真奈美さん(32)、一人娘の佳香さん(10)、佳孝さんの研究室に所属している職員七名と佳香さんのクラスメイトである男子生徒二名の計十二名。
警視庁の見解では現場に争った形跡が
関係者が語る、ファーブル先生のもう一つの顔とは?
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◇その日の夜。担当刑事と鑑識官のやりとり。
現場の写真に犯人が写っていましたという若い鑑識官の報告を受けた中年の刑事は、必要な資料だけ持ってきてくれと喫煙室の隣の空き部屋に彼を呼んだ。
「これを見てください」
鑑識官はA4サイズの二枚の写真をスチールデスクの上に並べた。
五十代半ばの刑事は、それを見て顔を歪めてしまう。
これより悲惨な出来事など世界で毎秒のように起こっている。
しかし、これがこの世でもっとも残酷な現場の記録に見えてしまう。
金のかかってそうなリビング。
ソファー、テーブル、テレビ。
そして、テーブルのそばで倒れる子供の死体、二つ。どちらも何も身に着けてはいない。
それを写した写真が二枚。二枚とも同じものに見える。
一体、どういうことだと疑問符を浮かべて鑑識官に目をやると、それを察した彼は「よく見比べてみてください。何か違和感がありませんか?」といった。
全く同じに見えるが、一枚目と二枚目には撮影時間に三十分の差があるという。
なぞなぞなんて出してないでさっさと答えをいえと怒鳴りそうになったものの、一応見比べてみる。
確かに違和感がある。しかし、それが何か見えてこない。
およそ一分後、答えがわかった。
「ボールだ」刑事はぼそりつぶやく。「一枚目はテーブルの上に赤いボールがあるのに、二枚目にはない」
「正解です」鑑識官はうなずく。
「でも待てよ。まさかこのボールが犯人ですなんていうつもりじゃないよな?」
「そのまさかですよ」
「ふざけるなよ! 勝手にボールが飛んで十人以上殺したっていうのか?」
「落ち着いてください。そもそもそれはボールじゃありません」
「じゃあ、なんだよ」
鑑識官はいった。「テントウムシです」
刑事は口を開けたまま、しばらく固まる。「てんとう虫、だと?」
「はい」
刑事はもう一度写真に目をやる。赤いボールに見えるものには確かに黒い斑点模様があり、テントウムシに見えなくもない。
「ふざけるな、野球ボールくらいあるぞ。こんなバカでかいテントウムシがいてたまるか。百歩譲ってこいつが犯人だとしたらどうやって人間を殺せたんだ? 牙でも生えてるのか? 毒でも持ってるのか?」
「ええ、毒ですよ」
「は?」
皮肉のつもりが正解してしまい、刑事は渋い顔をつくる。
「子供のころ、テントウムシで遊んだ経験は?」鑑識官が訊ねてきた。
「あるけど、それがどうした?」
「テントウムシで遊んでいたら、手に黄色い液体をつけられたのを覚えてますか?」
「ああ、確かそんなこと、あったような」刑事は曖昧に返す。
「あの液体はテントウムシの血液です。有毒なアルカロイドを含んでいますが、微量なので人間にはほぼ無害です。ですが、この虫が持っているのは人間にとっても猛毒です。体内に入れば幻覚作用を起こし、死に至ります」
「そんな物騒な虫がいるならニュースになってもおかしくないだろ」
「このムカデアシオオテントウムシは南米の特定の地区にしか生息していません。当然海外には持ち出せませんし、その地区でも厳しく管理されています」
「お前、詳しいな」
「ファーブル先生の著書で読みました。このテントウムシを国内に入れられたのもファーブル先生だったからでしょうね。コネやツテがあったんでしょう」
「なんだお前、あの学者先生のファンなのか?」
「僕ら世代なら、ファンじゃない人を探すほうが難しいですよ」
刑事は舌打ちする。
「その何とかテントウムシが人を殺せる毒を持ってるのはわかったけど、本当にテントウムシのせいなのか?」
「断言はできませんが、ほぼ間違いないかと。ムカデアシオオテントウムシはその名の通り、六本の足の他にムカデの足のような部位を体の裏側に備えています。なぜそんなものをぶらさげているのか明らかになっていませんが、一本一本が針のように鋭く、そして致死量のアルカロイドを含んでいます。現場の死体すべてにその針が刺さっているのは確認できました」
「つまりお前はこういいたいのか? 昆虫博士の家で、毒を持ったでっかいテントウムシが暴れて、その体についてる針に刺さって、みんな死んじまったと?」
「テントウムシはデリケートな虫です。環境の変化に敏感で、虫かごに入れて離れた場所に移動させるとパソコンが不具合を起こしたみたいに暴れだしたという報告がいくつもあります」
なんだよお前、テントウムシのファンなのか? と刑事はくだらないケチをつけそうになったが、本当にくだらないと思い、それを飲み込んだ。
だが同時に、恐ろしい事実に気づく。
「ちょっと待て。現場からこのテントウムシが消えてるってことは──」
「その心配はありません」鑑識官は片手をあげて、落ち着いてほしいと制する。「虫は廊下で死骸になっているのを確認して、こちらで保管してあります? ご覧になりますか?」
刑事は少し考えてから「……ああ、頼む」と返した。
鑑識官はスマートフォンを取り出し、メッセージを打ちはじめる。
刑事は天を仰ぎ、無駄に眩しい蛍光灯をじっと見つめた。
これで事件は
一家心中の真相は、猛毒を持つテントウムシに襲われたから。
悪い冗談のような真実だ。
だが、事件はもう一つある。
本件に事件性が薄いと結論付けられたのは『現場に争った形跡が
つまり、争った形跡は一つだけあった。
それが今、目の前にある忌々しい一枚、いや二枚の写真に写されている。
子供に襲われた子供の写真。
痛みがあるわけでもないのに、刑事は目をつむり、眉間を指でおさえた。
子供から子供への、性的暴行。
痛みと向き合うように、刑事は目をあける。
どうしてこんな残酷なことができる?
吹けば飛ぶような細い少年が、大樹のように肥満の少年を襲った形跡。
逆ならまだわかる。
なぜ大きな子は小さな子に乱暴にもてあそばれた?
真相がわかれば、そんなことだったのかと呆れてしまうのだろう。
いっそ悪い魔女にそそのかされたのだと鑑識に真顔でいわれたほうが楽になれる。
その鑑識官から「来ましたよ」と声がかかる。
頑丈なアクリルケースに、それは収まっていた。
野球ボールなんてもんじゃない。
丼をひっくり返したような大きさだった。
ムカデアシオオテントウムシ。
巨大で、赤く、背中に黒い斑模様。
「不気味ですよね」鑑識官は素直な感想を述べる。「それにこの模様って、まるで──」
鑑識官の言葉を刑事は引き継いだ。
「ああ──笑ってる女の子みたいだ」
END
🐞
少女不具合 キングスマン @ink
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