偽怪談洒落怖(ボイスシナリオ版)

笹 慎

騾」邯壽ョコ莠コ鬯シ縺、縺阪→縺ー縺礼塙

其の壱 千葉県/私鉄H線/とある駅(終電・終着駅)

//SE 車のドアが開く音。

//SE 車のドアが閉まる音。



 はい。お客さん、どこまで?


 ××沼の方ですね。今、念のため、ご住所ナビに入れますね。



//SE 「目的地へのルートガイドを開始します」カーナビのアナウンス。



 はは。そうなんですよ。


 この辺、夜遅くなると交通手段ないから、我々タクシードライバーはお客さん乗っけては、駅戻ってって何回もするんです。


 特に金曜日とかね。みなさん、酔って寝過ごしたりするでしょ。深夜割増ももらえるし、ちょっとしたボーナスエリアですね。


 でも、お客さんの住所だと、N線のS駅の方が近いのに、どうされたんですか。


 そうですか、そうですか。終電早いですもんね。N線。


 ああ。でも、奥さん、お酒飲んじゃってお迎えきてくれなかったんですね。はは。そういった方も私たちのお得意様ですね。


 十五分くらいで着きますから、お疲れでしたら、寝てらしても大丈夫ですよ。


 え? 電車の中で十分寝たから? 確かにH線は東京の方から直通ですもんね。



//SE カチカチカチ。ウィンカーの音が鳴る。



 なにか面白い話してくれって? 無茶ぶりしますねぇ、お客さん。


 はは。しかも怖い話ですか? まぁ、職業柄、聞く機会は多いですけどね。


 あ~そうそう。この前、同僚に聞いた話ですが。


 ××沼って、鯉が有名じゃないですか。あ、知りませんでしたか?


 元々は、この辺りにお住まいじゃなかったんですか。なるほど、なるほど。東京まで三十分のベッドタウンって売り出ししてますものね。


 で、鯉がどうしたって? そうそう。××沼って、鯉釣りで有名なんですよ。大きな鯉がいるんです。あ、鯉っていっても錦鯉みたいなキレイなのじゃないですよ。なんて表現すればいいのかな……


 そうです。そうです。ナマズみたいな黄ばんだドドメ色したやつです。


 金魚とか鯉とかって、こう住んでる水域の広さに比例して、どんどん身体が大きくなるでしょう? だから、××沼の鯉はとても大きくて有名で、鯉釣りの穴場スポットだそうです。


 それでですね、昔から怪獣みたいな大きな鯉がいて人を食うって、まことしやかに言われてるんですよ。ほら、鯉って雑食ですから、なんでも食べるらしくて。


 はは。そこは鮫じゃないとって? お客さん、そりゃ、映画の観すぎですよ。


 まぁ、鯉じゃ、あんまり迫力ないですかね? 一応、『怪奇‼ 人喰い鯉伝説』ってオカルト雑誌に記事が出たこともあるんですけど。



//SE フロントガラスに雨が当たる音。



 あ、雨降ってきちゃいましたね。お客さん、ちょうどいい時に帰ってきましたね~。



//SE ギュイッギュイッ。車のワイパー音。



 それで、同僚はね、家がここいらで農家してまして、この辺りで生まれ育ったんですよ。昼間は農業手伝って、夜はタクシードライバーしてる勤勉な奴でして。


 子どもって、ほら、そういう怪談好きでしょ? ××沼あたりは探検にうってつけなんですよ。鯉の怪獣を探して、よく遊んでたそうです。


 でも、彼が小学校の時に、行方不明になった同級生が出ちゃって。


 警察とか周辺住民とかね、大人たちがみんなで懸命に探したそうなんですけど、残念ながら見つからずじまいで。神隠しって当時ちょっと有名になったんですよ。


 いなくなった日に、彼はちょうどその同級生と放課後、遊んでいたらしくて、しばらくの間、怖くて仕方なかったそうです。



//SE カチカチカチ。ウィンカーの音が鳴る。



 はは。全然、怖くないですか? それは、すいません。一応、まだこの話には続きがありましてね。


 この間、鯉釣りしてた人がものすごく大きな鯉を釣り上げたそうなんです。本来なら新聞に載ったり、地方のテレビ局が取材に来ちゃうような大きさの。


 でも実際は話題にならなかったんです。なぜかっていいますとね。その鯉なにやら、お腹が異様に大きかったそうなんです。


 で、釣った人がお腹さばいてみたんですよ。


 そしたらね、なんと中からが出てきたそうです。しかも子供の。


 もう「人喰い鯉だ!」って、てんやわんやの大騒ぎで。警察の検視とかもあったそうですけど、子供の身元がすぐにわかったんで報道規制されたんですよ。



//SE 停車中のエンジン音。赤信号停車中。



 ああ、いま左手にあるの××沼なんですけど、夜で雨だと全く見えませんね。散歩なんてした日には、沼に落ちちゃいそうですな。


 最近は、カミツキガメも大量繁殖してるみたいなんで、夜は近づかない方がいいですね。


 え? カミツキガメですか? ペットだったのを××沼に捨てる人が多くて、そのカメが繁殖しちゃって問題になってるんですよ。本当に困ったもんです。



//SE 発車するエンジン音。青信号へ変わる。



 ところで、なんですぐに身元がわかったのかって? その同僚、直感的に「あの子だ」って感じて、その子のご両親に話に行ったそうなんですよ。それでわかったそうですよ。


 え? 確かに、なんでアイツすぐにわかったのかな……。


 それに当時、沼は捜索されなかったのかって? いや、そのあたりは、ちょっと私にはわかりかねますけど……。


 まぁ、お客さんが言う通り、最後にその子と遊んでいたのは、同僚なのに妙ですよね……。


 ちょっと、ちょっと! お客さん、怖いこと言わないでくださいよ!


 ……。


 今度、アイツと休憩所で一緒になった時、どんな顔して会えばいいんですか。困っちゃったなぁ。もう。



//SE 「目的地周辺です」カーナビのアナウンス。



 あ、おうちこのあたりじゃないですか? はいはい。もう少し先ですね。



 はい。着きましたよ~。お支払い……ですね。ここにタッチお願いします。


 そうなんですよ。もう支払い方法がたくさんあって、私たちもついていくの精一杯です。ははは。



//SE 車のドアが開く音。



 こちらレシートです。お忘れ物ないように。特にスマホ忘れる方が多いんですよ。


 大丈夫ですかね。ではでは、おやすみなさい。ご利用ありがとうございました。



(其の弐へ続く)

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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在の人物や団体などとは関係ありません。

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