第7話 反響する激情
「……駄目だ、分からん。」
とりあえずレポート以外の宿題を先に済ませてノートパソコンの暗証番号の捜索に映るも今の所、全く手がかりがない。
幸いなのはそこまでセキュリティが厚くなく、何度も試す事が出来る事ぐらいだろうか。
だが手掛かりは他にもまだまだある。
談話室という名のリビングから行く事の出来る、俺の部屋と蓮燔の部屋。そこへ繋がる廊下は異様な程に長く、それだけ部屋が広いという事なのだろうがそれにしても月明かりがよく当たりそうな廊下だ。
そもそも俺は蓮燔にここへ連れてこられて直ぐに談話室に腰を下ろした為、生憎と他の場所は調べていない。なら、記憶に直結せずとも普段俺がどんな生活をしていたのかなどの情報は洗えるはずだ。
まるで警察か何かだな、ここまで来ると。
「まずは手元から、だな。」
移動して調べるのも良いだろうが、蓮燔の話から察するに俺は今しばらくこのプライベートスペースから出られない。正直、管理される檻を変えられただけのように思えてしまうがまぁ言った所で仕方ない。
スマホのロックを解除し、中身に目をやるもゲームアプリの類は確認出来ない。
SNSとよく分からないアプリ、辞書、写真、カメラ、マップぐらいしかない。
よく分からないアプリが気になって開いてみると、どうやらメモ帳だったらしい。まるで自分の字が嫌いだと言わんばかりに字がびっしりと刻まれており、比べなくとも鞄に入っていたメモ帳よりも沢山ページがある。
内容としては誰が蓮燔を虐めたのか。次の授業内容の予想。月の傾き方。そして、一際気になった「忘れてはならない」とタイトルされたページ。
開いてみれば真っ黒に塗り潰されたページに動画の再生マークがついている。
不気味である事、不思議である事には間違いないものの、何となく音を出してはいけないような気がして鞄の中を漁っていればイヤホンが出てくる。
しかし、その内容は凄惨とした物だった。
何処かであった残虐の記録。女も子供も男も全く関係なく、無数の死体がただただ映っている。
でも何故か既視感があり、これをまともに見れているのを考慮すると元々こういう光景は慣れているのかもしれない。それか、これを好むような人格だったのか。
考えている間にも進んでいる動画に、少しばかり変化が訪れた。
つい先程までばたばたと視えない何かによって人が死んでいく映像だった物に誰かの顔がはっきりと映し出され、そのよく分からない男は此方に対して怒っているらしい。
『奏、お前は何でこんな事をしたんだ……!! お前の所為で、お前の所為で……!!』
どうやら、男は俺を殴っているらしい。
そんな映像を見て、また何故か憶えていないはずなのにこの男に対して、それと何かに対してこみあげてくる強い怒り。
記憶を失う前の俺は、こいつをどうしても殺したかったらしい。
明らかに俺の声と思われる物が俺の中から反響して体に、頭に響く。俺を殴っているこの男を呪い殺したい、嬲り殺したいという気持ちが俺の渦巻いて仕方なく、――― でも、それも直ぐに終わる。
一体何が起きたのか、俺を殴っていたその男は腹の辺りを鋭く黒い何かに貫かれている。棘だらけで、血を吐きながらも喚く男を引き摺っては奥の壁に叩きつけて何度も何度も刺している植物の蔓のようで、茨のようで、でもそれがそんな触手のように動くなど到底信じられない。
槍のように扱われているそれは何度も何度もその男を刺し、やがて原形が失われていく。
『……もう、良い。』
そう呟いたのを最後に、動画は止まった。
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