第4話 知っているはずなのに
……?
「……質問、良いか。」
「あぁ! 幾らでも聞いてくれ、どうした?」
「このレモンティーだけど……あんまり味がしないような。これは俺の味覚がおかしいのか?」
「……あぁ。奏は幼少期から味覚と舌の神経が若干死んでてさ。それでも結構味を濃くしてんだけど、どの医者に掛かっても成果は得られなくてさ。」
「俺とお前は幼少期からの付き合いなのか?」
「あぁ。昔っから家が近かったのもあって、幼馴染なんだよ。それでちっさい頃からお互いの学力とかを競ってたんだけど……まぁ、俺がお前に勝てるなんて夢のまた夢でさ。こっちに来てからも色々教えてもらってたんだよ。」
「味覚の異常の理由とかは知ってたりするのか?」
「流石に俺もお前が教えてくれた事しか知らないけど、昔、実家でストレスを溜め込んでたらいつの間にか味が分からくなったって聞いた。実際、精神科と心療内科、内科と行ったけどもう治らないぐらいに酷いらしい。……一応、薬で緩和する事も出来るとは病院で言われたけど、なくても困らないからってお前が断ったんだ。」
なくても困らない……か。
ということは、以前の俺は昔からあまり食に興味関心がなかったんだろう。そうでもなければそんな台詞が出てくる事はないはずだ。
しかし、確かに味覚はなくても困らないのかもしれない。
幾ら主席とはいえども具体的にはどれぐらい凄いのかは知らないが、もしかしたら味覚なんて物がなくても毒味が出来たり。何らかの楽しむ方法等があったのかもしれない。
これの答えを今急ぐ必要はないだろう。
「お前は……甘い物が好きなのか?」
「あぁ、大好き。お前は逆に苦手でさ。甘い物より辛い物の方が好きだったんだけど、それで1回血糖値が低過ぎるって怒られて以来は時々食べるようにしてたんだ。」
「俺とお前はどんな関係だったんだ?」
「……何か、予想はしてただけど尋問されてるみたいだな。」
「え、あぁ……すまん。その、少しでも情報が欲しくて。」
「あぁいや、責めてる訳じゃないって。何より、奏が色々分からなくて困ってるのは知ってるからさ。それで……俺達の関係だっけ。」
「あぁ。」
「さっきも話した通り、俺達は幼馴染だ。ライバルでもあり、唯一背中を預けられる友人でもあり、情報も暗くも共にしてきた親友。少なくとも、俺はそう思ってる。……お前が記憶を失う前、俺がどれだけ聞いてもお前がどう思ってるのかを教えてくれた事はなかったけどさ。」
「……そうか。なら、俺のスマホとノートパソコンの……。って流石に暗証番号は分からないか。」
「あ~……。そうだな。流石に分かんねぇ。あぁでも、とある日付を暗唱葉豪暗証番号にしてるとは聞いた。」
「成程。ちなみになんだが、操作方法は分かるか?」
「あぁうん、それなら分かる。俺と奏のスマホは俺と共同で作った世界に2つしかないスマホでさ、動力源は魔力だから魔力を込めれば良いんだ。」
「……魔力を、込める。」
「あぁ。体の中や体の周りから見えない力を集めてここに閉じ込めるような感覚を意識してくれ。」
体の中や体の周りから見えない力を集めてここに閉じ込めるような……感覚。
抽象的なのか具体的なのか分からない説明ではあるが、それでも何となく何かを理解した。そんな、気がする。
やった事のない事で戸惑いながらも。まず、そもそもとして魔法がよく分からないが体中の気のような物をここに流せば良いかと、実際にやってみると本当に画面が点く。
比較的淡泊な性格をしていたらしい俺の感性は割とロマンチストなようで、スマホの待ち受け画面はなんと何処かの夜空で星が綺麗に映っているような物。
しかし、蓮燔の話ではかなり精神的にボロボロだったようなのでそれを癒す為に取った手段の1つなのかもしれない。
「奏は軽い不眠症持ちでさ、どうしても眠れない時は俺の寝室にある窓から外覗いてた。」
「お前の寝室で……?」
「傍に誰か居た方が安心出来るんだってさ。」
「……へぇ。」
相当参っていたらしい。まぁそれも、記憶を失った今の俺には関係がないのかもしれないが。
それはそれとして、やはり暗証番号が分からないので結局は魔法の使い方。魔力の循環の仕方を覚えただけでそれ以上の進展はない。
どうしようかと思っていればサファイアが埋め込まれたネックレスの裏に何かが刻まれている。
どうやら数字のようで、裏側から見えないようになっているそれは1226。それを打ち込んでみると呆気なくロックが解除出来た。
だがその中身は異様その物。あのロック画面は何だったのかと思える程に病んでいる。
スマホのホーム画面は何故か真っ黒。それなのに緑は薔薇の茨のような模様が刻まれている。
1226……ねぇ。
「蓮燔。」
「ん? どうした?」
「1226って聞いて、何が思い浮かぶ?」
「………………い、や。俺は……。……なぁ、奏。本当に、思い出せないのか?」
「あぁ。だから聞いてる。」
「……ならそのまま忘れておいてくれ。」
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