Voice.5 陽キャアイドルの幼なじみと一匹狼アーティストが出会った件について
誰も素性を知らないアーティスト
――次の日の4時間目。
現国の授業の初めで、教壇に立っている女性の先生が言った。
「ではまず、今日授業でやる作品を誰かに音読してもらいます」
その言葉で、みんながいっせいに教科書で顔を隠して先生から目をそらしたり机に突っ伏したりして、先生に当てられないように対策する。
「音読って言った瞬間みんながそうするのはもう教員になって3年目だからわかってるのよねー。 誰にしようかなー」
先生は周りを見まわしてから、言った。
「じゃあ……篠原さん」
「は、はい!」
当てられた篠原は返事をする。
「と、それから横一列の人達、立って読んで」
……よりによってオレも読まされるのかよ。
そして篠原は立ち上がって教科書を開いてから、音読を始めた。
篠原の声はやっぱり聞いていて心地がいい。
次にオレの番が来て、立ち上がって音読をする。
篠原の次にオレが読まなきゃいけないなんて恥ずかしい。
そして、順番に音読をしていき、一番端の女子の番が来た。
すると、その女子はすぐにまっすぐ立ち上がって音読を始める。
低めだけど透き通った綺麗な声だ。
音読を終えると、凛とした表情で座り直した。
立ち方から声に座り方まで、かっこいい、というのが第一印象だった。
すると、篠原がオレの肩を叩いた。
小声で話しかけられる。
「瀬尾くん」
「何? 篠原」
「この後の昼休み、ちょっと話があるんだけど」
「わかった」
――昼休み。
オレはメガネと文豪にゲーム制作部の新入部員として篠原のことを紹介するために、篠原と屋上に来ていた。
篠原と2人だけになって話をする時間を作るために、メガネと文豪には、購買で昼飯のパンを買ってきてくれ、と頼んである。
「で、篠原。話ってなんだ?」
「さっきの現国の時間音読した時、最後に音読した子居たでしょ?」
「あーあのクールな感じの女子か」
「そう。あの子の声、どこかで聞いたことある気 がするんだよね」
「学校以外で?」
「うん。けっこう最近だった気がするんだけど……」
オレには全然聞き覚えがない。
すると、メガネと文豪が屋上に来た。
「オタクー。焼きそばパン4人分ゲット……って……え!?」
篠原の姿に気がついて、メガネが購買の袋を落とす。
文豪が声をあげた。
「し、篠原さん! なんでこんなところに!?」
オレが冷静に口を開く。
「なんでって部員だからな」
「マジかよ!?」
「マジだよ」
2人が同時に出した言葉に、オレは真顔で返した。
そして昼飯を食べながら、篠原のことを紹介する。
昨日篠原と話して、篠原のゲーム研究部の入部理由は篠原がオタクだからということではなく、演劇部として演技の経験を積むために入部した、ということにした。
「――……というわけで、篠原が声優としてゲーム制作部の部員になった」
「篠原朝陽です。よろしくお願いします」
篠原がお辞儀をする。
すると、文豪がオレに詰め寄った。
「やっぱりあれか!? 幼なじみだからか!? 幼なじみで仲いいから頼めたのか!?」
「食事中に大声出すなよ文豪」
メガネが冷静にツッコミを入れる。
オレは文豪の勢いに気圧されて、思わず苦笑いした。
「あのさ、篠原が入部してくれた経緯は今話したからわかったよな?」
オレが言うと、文豪はうつむく。
「ご、ごめん。話聞いてもちょっと信じられなくて……」
「まあ、オレもすぐにオーケーされるとは思ってなかった」
本当はオタクの篠原ならオーケーするだろうと思ってたけどな。
篠原はオレの言葉が嘘だとわかっているからか、オレしか気づかない程度に小さく笑った。
昼飯を食べ終わったメガネは、スマートフォンを取り出して音楽配信アプリを開くと、楽曲の再生画面を見せる。
「なあみんな、今ネットでバズってる
篠原が言った。
「私知ってる! 顔出ししないでネットで歌を歌ってて、動画投稿の仕方も生歌だけっていう歌手でしょ?」
「そうそう。大鳥美香の曲、今オレ達が作りたいゲームの雰囲気にすごく合ってるんだよ」
そして、メガネはスマートフォンをみんなの真ん中に置いて、曲を再生した。
ピアノがメインのアレンジに、大鳥美香の歌声がよく合っている曲だ。
聴いているとなんだか穏やかな気持ちになる。
「へー。初めて聴いたけどいい曲だな。歌声も綺麗だし」
オレが言うと、メガネは音楽を止めて嬉しそうに言った。
「だろ!? 大鳥美香みたいな曲作って歌える子が部活に欲しいんだよ」
黙って曲を聴いていた文豪が言う。
「オレも初めて聴いたけど好きだな。こういう歌」
篠原は笑顔で言った。
「私は前から知ってるからもちろん好きだよ」
みんなの感想を聞いて、メガネは大きな声で宣言する。
「じゃあ次はゲームの曲を歌ってくれる歌手を探すぞー!」
「おー!」
一致団結したオレ達の声が、放課後の青い空に響き渡った。
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