君だけに話す夢

 オレと篠原は食べものを注文して待っているあいだ、柚木真奈さんのライブのセットリストの曲順でカラオケを歌う。

 そしてちょうど半分くらい歌い終わった時、女性の店員がノックをして入ってきた。

 立っていたので、2人でソファーに座る。


「失礼します。フライドポテトとチョコレートの盛り合わせとロシアンたこ焼きです」

「ありがとうございます」


 2人でお礼を言うと、店員はテーブルにオレ達が頼んだものを置いた。

 それから、店員は説明する。


「こちらのロシアンたこ焼き、普通のロシアンたこ焼きとは少々変わったものでして、当たりが入っている個数はランダムになっております」

「そ、そうなんですか?」


 オレが聞くと、店員は清々しい笑顔で答えた。


「そうですね。ちなみに当たりが入っている数を知っているのはキッチンのスタッフだけなので、私達ホールスタッフはわかりません」


 もしかしたらオレ達はとんでもないものを頼んでしまったのかもしれない。

 そして、店員がドアを閉めた後、2人で頼んだ食べものを眺める。

 フライドポテトにチョコレートの盛り合わせにロシアンたこ焼き、どれも盛りつけがおしゃれでおいしそうだ。

 篠原が言った。


「……たこ焼きも見た目はおいしそうだね。見た目は」

「と、とりあえずロシアンたこ焼きは最後に食べようか」

「うん。そうだね。そうしよう」


 そして、途中で歌を挟んだりしながら2人で頼んだ食べものを食べて、ロシアンたこ焼きが最後に残った。

 オレは口を開く。


「当たったらどうする? カラオケだからすごく難しい歌を歌う、とか?」

「それだとなんか普通じゃない?」


 そう言って、篠原は考える仕草をしてから言った。


「あ! こういうのは? 当たった人は当たらなかった人のお願いを聞く、っていうの」

「内容によってはすごく恥ずかしい思いするやつだな。でもおもしろそう」


 そして、2人でドリンクバーで水を持ってきてからソファーに座る。

 たこ焼きは全部で6個だから、2人で割って3回食べることになる。

 ただし、当たりが入っている数はランダムで、全部食べ終わるまでそれはわからない。

 オレと篠原は息をのむ。


「せーの」


 2人同時にたこ焼きを口に運んだ。

 噛むとたこ焼きの生地がいい具合にカリッとしてて、中身はトロッとして――。


「めちゃくちゃ辛い!」


 ――1個目でオレが当たった。

 一番ヤバい時間差攻撃系の一味の辛さだ。

 前にアニメで出てきた激辛麻婆豆腐を商品化したレトルトの麻婆豆腐を作って食べた時と同じ味がする。

 すぐにグラスを取って水を飲み干して、息をついた。

 辛さに悶えているオレを見て、篠原は声をあげて笑っている。


「たっくん罰ゲームね」

「……わかってるよ」


 オレは篠原のほうに向き直った。

 自然と距離が近くなる。

 心臓の鼓動が高鳴って、篠原の顔がうまく見られない。

 篠原はこう言った。


「私のお願いは……今度やる真奈ちゃんのライブのチケット取るの手伝って!」

「……え?」


 オレは思わず聞き返す。


「今度のライブ会場東京のドームでしょ? 絶対倍率高いと思うんだよね」

「まあそうだな……。 前発表された東京のドームのライブはツアーじゃなくて2日間だけだから……」

「だからお願い! 東京のドームは絶対行きたいの! 私と連番して!」


 篠原は胸の前で手を合わせて言った。

 オレはいつも1人でライブに行くから、単番でチケットを取っている。

 でも、篠原のお願いだし……。

 オレはロシアン当たったし……。

 そしてしばらく考えた後、言った。


「いいよ。連番しても」


 すると、篠原は今までで一番の笑顔を見せる。

 そして、声をあげた。


「やった! たっくんありがとう!」

「っていうか、ロシアン当たったから断れないし。ほら、次食べよう」


 そして、2人で2個目を食べた。

 両方とも普通のおいしいたこ焼きだった。

 続けて3個目を食べる。

 最後も普通のたこ焼きだ、と思った瞬間。


「辛ーい!」


 今度は篠原が当たった。

 辛さに耐えられないらしく、立ち上がって部屋の中を歩きまわっている。

 そして、グラスを取って水を飲み干した。

 オレは笑みを浮かべながら言う。


「篠原罰ゲームな」

「はいはい。なんでもお願い聞きますよー」


 ちょっと怒ってる顔初めて見たな、なんて思いながら、オレはこう言った。


「篠原がまだ誰にも言ってないこと教えて」


 すると、篠原は目をみはる。

 そして、顔を赤らめて恥ずかしそうに笑った。


「難しいお願いだなー……」


 それからマイクを持って、テレビの横に立つ。


「じゃあ、たっくんだけに話すね」

「うん」

「昨日私が『私はたっくんに感謝してるんだ』って言ったでしょ?」

「あの言葉の意味、教えてあげる」

「……どういう意味?」

「あの日、真奈ちゃんのライブに行って、たっくんにライトもらった日にね、夢ができたの」


 篠原は、マイクのスイッチを入れる。

 そして、笑顔でマイクに向かって声を出した。


「私、声優になりたいんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る