[3] 後書
あとがきです。模造の街のペインター、いかがだったでしょうか。無作為に情報を羅列し、事象一般の支離滅裂を表現してみました。このちょっと特殊な構成は、レディオヘッド「キッドA」を参考にしました。並列的な形式へと、私が思うことすべて、過ごしてきた時間の中で思い感じたありとあらゆることを、詰め込みました。いまや頭の中はすっからかんで、どうやっても何も引っ張り出せそうにありません。非常にくたびれています。二度と小説なんて書きたくありません。先のことはわからないとして、とにかく今この瞬間だけは。できる限り言葉に触れたくないというのが本音なのです。けれどもそうしていってまっとうな社会生活を送れるかといえばそうでもなさそうなので、でがらしみたいなことをつらつら述べてリハビリしているわけです。
いったい何を書いたものでしょうか。さっきも言ったとおりもう何もかも書きつくしてしまって、すっからかんな状態なのです。創作ノート的なことでも語ってみることにしましょう。まず元となるプロットを思いついたのが5年前です。それから事ある毎に書いたり消したりを繰り返して、ようやくペインターが登場し始めたのが第6稿をやっていた1週間前のことになります。そこから不意に勢いがついて、一気に書き上げてしまいました。ペインターとは何か? ペインターというのはすなわち、現代社会において自殺し損ねた人間のことです。死ぬべき時に死ねず無様に生きつづけるものを表象して、ペインターと呼んでいます。ビルを赤く塗る行為は見失った墓標を再創造することであり、それを夜に行うことは現実との解離を表しています。また彼らが言葉を発しないという設定により、コミュニケーション不全状況が示唆されるのです。
世界の現状を眺めて私は思います、不要なものが多すぎる。もっと積極的に切り捨てていくべきだ。世界の容量は無限ではない。すべてには限りがある。自殺するなと人は言う、だがしかしもしかすると自殺というのは本当のところ、全体にとっては必要なことなのではないか。生体が存続するためにはいくらかの細胞の能動的死滅、アポトーシスが求められる。細胞は自らの終わりを判断するとこっそりと死んでゆくのです。人類が一個の生体であるとするなら、現代はそのアポトーシス機構が確実に壊れている。生体でいうところの癌、あるいは自己免疫疾患。自己反応性リンパ球は本来自らの不要を悟り消えゆく。無意味にそれが生き残ると生体に障害を与える、極めて厄介。人は死ぬべきときに死ななければならない。全力で私は伝えたいのです。死ぬべき人間は存在する、そして彼らはすぐさま死ななければならない、人間であるための責務として。
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