第29話 返事

◇皇side◇

 花屋さんに向かった俺は、俺の財布に入っている全てのお金を使って、店員さんに白薔薇の花束を作ってもらい、白鳥さんが待ってくれていたレストランのテラス席まで来た。

 本当なら白鳥さんが綺麗だと言っていた指輪を買ってくるのが理想だったが、現実はそう甘くなく、俺には三百万円もする指輪を買うことはできなかった……が、返事はできる。


「皇くん……?そのお花、どうしたの?」

「さっきの花屋さんで買いました、白鳥さんにとても似合うと思って」

「私に……」


 白鳥さんは俺が手に持っている白薔薇の花束を凝視していたが、俺が口を開くとすぐに俺と目を合わせた。


「今日白鳥さんに告白されて、色々考えました……俺は、白鳥さんに比べると何もできなくて、そんな俺がたまたま何かのきっかけで白鳥さんから好きになってもらえただけで白鳥さんの告白を受け入れてしまっても良いのか、ただ気持ちに頷いて答えるだけで良いのか」

「……」

「それで、どうやったら白鳥さんの恋人に相応ふさわしくなれるのか考えました……学年で一番の成績を取れば良いのか、何かすごい実績を作れば良いのか、少なくとも今の状態で白鳥さんと何の引け目もなく恋人になれるとは思ってませんでした」


 それが、白鳥さんから告白された直後の俺の考え。

 だが、それからしばらく白鳥さんと過ごしている間に、俺の中で疑問が生まれた────何故、俺は白鳥さんに相応しい人間になりたいと思っているのか、ということだ。

 別に告白されたからと言って、絶対に受け入れなければならないわけではない……相手が白鳥さんならなおさらで、立場などを理由に簡単に白鳥さんと俺が恋人になれない理由を見つけて、俺に相応しくない白鳥さんと付き合うことなんてあり得ない、と思うことだってできただろう────白鳥さんの家に住み込みを始める前ならば。

 今の俺は、まだ白鳥さんに相応しい人間では無い……でも、相応しくありたいと思っている。

 楽しそうに笑っているところや、突然驚かされるようなことを言うところ、俺のことを心配して涙を流してくれるほどの優しさ……そんな白鳥さんのことを、俺はもっと近くで見ていたい。


「今は……白鳥さんには遠く及ばないですけど、白鳥さんに相応しい人間になれるように、文字通りこの命がある間ずっと努力するので……白鳥さん、好きです!こんな俺で良ければ、恋人にならせてください!」


 そう言いながら、俺は白鳥さんに白薔薇の花束を差し出した。

 白鳥さんはそれを受け取ると、白鳥さんは微笑しながら言った。


「私が告白したんだから、恋人にならせてくださいも何も無いのに……でも、そういう皇くんも好きだよ……私の方こそ、よろしくお願いします」


 そして、最後はしっかりと綺麗なお辞儀で俺に頭を下げた。

 ────三秒間ほど俺に頭を下げた白鳥さんは、白薔薇の花束を持ったまま、俺のことを正面から強く抱きしめた。


「私、今、本当に皇くんの恋人……なんだよね?」

「はい、足りなかったら何度でも伝えます……好きです、白鳥さん」


 そう伝えながら、俺は初めて────白鳥さんのことを抱きしめた。

 白鳥さんのことを初めて抱きしめると……不思議な感情が出てきた。

 ずっとこうしていたいような、心が満たされているような……


「二年間、ずっとこうしたかった……ずっと……皇くんのこと、絶対離さない……好きだよ、皇くん」


 白鳥さんは目を閉じながら俺に顔を近づけてきた。

 ……俺は白鳥さんが何をしたいのかを理解して、それに応えようとした────が。


「白鳥さん、その……また後でも良いですか?」

「どうして?私、もっと皇くんと────」

「ここ、レストランのテラス席なので……」


 高級レストランということもあって、元々人は少なく、そのテラス席に人はほとんど居ないが、それでも少人数は居る。

 そんな人たちの前で恋人的な行為をするのは、色々なものに反してしまっている気がする。


「じゃあ、今はしなくて良いけど、部屋戻ったら……ね?」

「約束します」


 そう約束した後、夜景を楽しみながら二人でフランス料理のコース料理を美味しくいただくことにした。


「こんなに高いところのフランス料理いただくの初めてなんですけど、盛り付けがとても斬新ですね」


 真ん中に美味しそうなお肉が置かれていて、その周りには芸術的だと表現したくなるような配置でソースや野菜などが置かれている。

 色鮮やかで、見た目からしてとても高級感がある。

 そのままナイフとフォークを使ってそのお肉を食べてみても……やはり美味しい。


「皇くんが美味しそうな顔してる〜」

「はい、美味しいです」

「……今度、私もオシャレなフランス料理作ってあげよっか?」

「白鳥さんそんなこともできるんですか!?」

「うん、こういう高級レストランで出るような料理は一通り────」


 俺と白鳥さんは、恋人になった直後でも、いつもと変わらなく楽しく雑談をしていた……変わったところを上げるとするなら、会話をしている最中に、恋人になった白鳥さんに、今までそんなことをしてはいけないと思っていたのが取れてしまったせいで見惚れるようになったことぐらいだ。

 ご飯を美味しくいただいた俺たちは64階にあるスイートルームに戻ってきた。


「白鳥さん、今からお風呂とか入ります────か?」


 そろそろ寝る時間になってきて、お風呂に入った方が良いと思い、白鳥さんの方に振り返りそのことを伝えようとすると、白鳥さんは目を閉じていた。

 そして、ただ一言だけ俺に伝えた。


「約束」

「……覚えてますよ」


 俺が渡した白薔薇を手に持った白鳥さんに、を果たした。

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