第7話 コピー
『というわけで今日からメタニンの特訓にミナが協力してくれる』
「いや特訓したくないんですけど」
ハカセがなぜか大変上機嫌で腹が立つ。わりと大事件を頑張ったばかりなのに早速またわけのわからない無茶な特訓をさせられると思うとこちらの気分は急降下だ。
最初に目覚めた白くて何もない広い部屋を訓練所として使うらしく、余計にしょうもない冒涜球技の記憶が蘇る。
せめてもの救いはミナの協力か。地球防衛隊というくらいだから大変な訓練を紹介される危険はあるが、やる意味の分からない非常識な特訓は止めてもらえる可能性が高い。
「ミナは私の味方だよね?キツイ特訓とか変な特訓は止めてくれるよね?」
「わたしメーちゃんの為ならなんでもするわ」
「ちょっと重いかも!?」
仲良しこよしじゃない大人の関係みたいな話だった筈なんだけど、距離を取るどころかゼロ距離で溺愛されているような気がしてならない。
『ミナはメタニンのオリジンについて知識があるので、今日は使うべき精霊魔法を教えて貰いながら的あてと行こう』
あれ、なんだ意外にもまともな特訓だ。これくらいなら別に私だって普通に
「いやちょっと待って?ハカセ今オリジンって言った?」
『言ったが』
「私ってそれっぽい機体とかじゃなく完全にオリジナルが居る感じなの!?まさかパクリ!?」
『パクリというか、本物を勝手に作ったというか…』
「海賊版じゃん!!!!!!!!」
大変なことになってしまった。何が人類の希望だ犯罪者め。というかどうしよう私が散々ダサいと責めたあの名前に元が居るなら、パクリ品が本家に文句言ってた事になるのでは。嘘でしょあまりにも失礼過ぎる。全方位に謝りたい。
「安心して、メーちゃんは大昔から権利制限解けてるわ。古典のキッズアニメだもの。」
「一旦セーフ!?いやでも子供向け作品のキャラ名ぼろくそに言っちゃったよ!全世界の本物のメタニンファンに謝らないと二次創作物として顔向けが……」
「他人の名前を悪く言うのはよくないと思うけれど、でもメタニンファンというのは存在しないわ。そんなキャラ居ないもの」
「あれっ!?よく分かんなくなってきた!なぞなぞか何か?」
もう全然訓練どころじゃないんだけど。なんならホラーなんだけど。
ある日自分が自分じゃなくて誰かのコピーだと知らされて、それが誰なのか聞いたらそんなやつ居ないって言われるの、多分SF系ホラー以外の何物でも無いと思うんだけど。
「原典シリーズの詳しい設定は後で基礎から各種リメイクまで語らせてもらうとして、かいつまんで説明するとメーちゃんの参考元はまず間違いなくメーちゃんで、メタニンという色々混ざった名前はハカセによるメーちゃんと更に複数の作品の再現システムロボの呼称になると思うわ」
「……なるほど?」
『高性能AIが難しい話を聞き流すな。絶対分かってないのに面倒だから思考放棄したろ。』
「だってAIにいきなり自分が何者なのか考えさせるのは上級者向けすぎるじゃん!いいよもう、後で少しずつ聞くから特訓しようよ!」
実際色々本当に不安になってきたので話を打ち切って特訓を開始する。ミナに本当のメーちゃんはどんな事が出来るのか聞きながら、自分に再現出来そうなものを探していく。
子供向けでギャグ寄りの作品だからか物理法則なんてあって無いようなもので、シリーズやリメイクによっては魔法やそれに準ずる意味不明の技を何の制限も無く使いまくっていたようだから、別に精霊魔法を好きに使っていてもそんなに違和感無いらしい。
どんな作品なんだと不安に思いつつも、そこそこ自由に出来そうでありがたくもある。
ヒーローモードに関しては同じ時間帯にやっていた別作品に似た機能があるのでハカセが混同したと思われるが、そのハカセは本当に付けた覚えが無いらしく、もしかしたら学習データから生まれたオリジナル機能かも知れないので色々試して確認していこうという事になった。
「ミナは再現して欲しい好きな技とかある?」
「わたしメーちゃんの全部が好き」
「ちょっと重いかも!?」
やっぱり大人の付き合い的な距離感ではない。これだけ近いなら普通に友だちになってくれても良いのにと思う。
ただ……そうか、メーちゃんって、本当にメーちゃんが居るのか。
あだ名だと思っててちょっと嬉しかったから、ちょっと寂しい。
訓練を終えて、ハカセがどこかに消えて、ミナが部屋に帰ったあと、一人で散歩しながら今日の事を考える。
そうだよね。話を聞く限り私のオリジンは大昔から長く愛されている定番キャラクターで、だからハカセは再現したくて、ミナもそれが大好きで。
ハカセとミナの好きなメーちゃんは本当のメーちゃんで、
メタニンのメーちゃんじゃない。
……まぁ、ちょっと、寂しい。
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