双翼の魔装少女
天利ミツキ
第一部
第1話 異世界転移
「ありがとうございました〜」
「ふっふっふ……」
学校からの帰り。
わたしは行きつけの模型ショップで、ずっと買おうと思っていたプラモデルをようやく買うことが出来て、少しご機嫌だった。
プラモデル造りは女の子らしくない趣味だとは自覚してるけど、こればっかりは辞める気はさらさらない。
だって好きなんだもの。
そんなわたしの今日の戦利品は、この間発売されたばかりの、お父さんが子供の頃から続いているロボットアニメの派生作品の主人公機だった。
その主人公機は、わたしが初めて見たロボットアニメのモノでもあった。
そのフォルムに一目惚れしたわたしは、発売日が発表されてからずっと心ここにあらずな生活を送っていた。
具体的には、体育の授業でボーッとして、バレーボールのボールを顔面で受けるくらいだった。
一秒でも早く家に帰って、早速作ろう……と思っていると、出会い頭に右側から来たヒトとぶつかってしまった。
「わっ!?」
「きゃっ!?」
あちらも余所見していたようで、お互いに尻餅をつく。
ぶつかってしまった相手は、わたしと同い年くらいの綺麗な黒髪ポニーテールな女子高生で、お嬢様学校で有名な学校のブレザーの制服を身に纏っていた。
ちなみにわたしの学校の制服は、オーソドックスなセーラー服だった。
「いてて……大丈夫で……うん?」
お尻を擦っていると、相手のヒトが持っていたらしい紙袋から、プラモデルのパッケージが顔を覗かせていた。
そして奇しくも、わたしが買ったプラモデルと同じモノだった。
「それ! ストレートガンドル!」
「……分かるの?」
「うん! ストレートは初代をオマージュしたような赤・青・白のトリコロールのガンドルで、特徴はなんと言ってもバックパックの換装機能! この機能によって戦場・戦況にあった武装に換装するのが最大の特徴な、わたしのマイフェイバリットガンドル! そしてキット化にあたり、その換装機能を忠実に再現したこのキットは最高傑作と言っても過言じゃないわ! 背中にジョイント穴が空いてるから、無改造で他のキットのバックパックの移植が可能! それによって、自分だけのストレートを造ることも可能に…………………………あ」
ついついオタク特有の早口で説明してしまって、相手の若干引いたような表情で冷静さを取り戻す。
そして恥ずかしさが遅れてやって来た。
「あ……その……ごめんなさい。ついつい熱くなっちゃって……」
「いえ……急に早口で説明を始めるから、呆気に取られちゃっただけ。あたしもストレートは好きだけど、一つだけ訂正。ストレートは正確にはガンドルじゃないわ。OSの頭文字を取ってガンドルって呼ばれてるだけ。そこは間違えないように」
わたしも大概かと思ったけど、目の前の女の子もなかなかに厄介なオタクらしい。
「そんなのわたしも知ってるよ。通称みたいなモノでしょ?」
「ええ、そうね。分かればよろしい。……立てる?」
女の子が立ち上がり、わたしに手を差し出してくる。
その手を取って、わたしも立ち上がる。
「ありがとう」
「どういたしまして……うん?」
女の子がふと、足下に目を向ける。
それにつられて、わたしも足下に目を向ける。
するとわたし達の足下には、マンガやアニメに出てくるような、ファンタジー染みた魔法陣が浮かび上がっていた。
その魔法陣は光っており、徐々に輝きが増している……気がする。
唐突に怖くなり、わたしは女の子の手をぎゅっと握る。
「な……ナニコレ!?」
「あたしに聞かれても!?」
当たり前っちゃ当たり前だけど、女の子もこの魔法陣に心当たりはないようだった。
その間にも魔法陣は輝きを増し、輝きが最大に達した瞬間、わたしと女の子の身体を包み込んだ―――。
◇◇◇◇◇
「うっ…………うん?」
閉じていた目を開けると、目の前には某北の大地でしか見られないような草原が地平線まで広がっていた。
「ここは……?」
隣から、さっきの女の子の声が聞こえてきた。
女の子の方も、この場所に心当たりはないようだった。
……というか、信じられないし夢だと思いたいけど、この状況ってマンガやラノベでよくあるあの展開に似てる気が……。
そう思うと、頭に浮かんだある単語が無意識に口から出ていた。
「わたし達……異世界に転移しちゃった……?」
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