3・らしくない……らしくない?
八尾の家から帰る途中、スマホに青野からメッセージが届いた。
──「体調大丈夫っすか」
さらに、ポンッと「ふみニャン」のスタンプが表示された。壁からチラッと顔だけを覗かせているやつ。
いや、これ、ふつうメッセージの前に送るもんじゃね? 「ご機嫌うかがい」のスタンプなわけだし。
でも、こういうのを後から送ってくるところが、青野っぽいといえば青野っぽい。なんか俺への対応が雑っていうか……まあ、そういうところも嫌いじゃないんだけど。
──「もう平気。昨日はごめんな」
送信すると、すぐに返事が届いた。
──「らしくないですよ。体調悪いなら仕方ないでしょう」
「らしくない」──らしくない、かぁ。
どのあたりだろう。「昨日はごめんな」あたりか? まあ、たしかにわがかまプリンセスなら言わないかもな。
そう認識したとたん、疲れがどっと押し寄せてきた。
やばい、なんかしんどい。
ひとまず目を閉じて、息を吐き出す。
大丈夫、こっちにいるのもあと少しだ。
八尾の話によると、満月は3日後らしい。つまり、今日も含めてあと3日と半日だけ「こっちの俺」のふりをすればいいんだ。
目を開け、メッセージアプリの入力画面にタッチした。しばらく電車に揺られたあと、俺は、俺が考えた「わがままプリンセス」らしい返答を打ち込んだ。
──「今度のお泊まりのときは、いっぱいやろうな」
すぐに既読がついた。
でも、実際に返信が届いたのは、快速列車が1駅分通過してからだった。
──「なにをですか。『大富豪』ですか」
バカ。ふたりで「大富豪」やってどうするんだよ。
そう返すと、今度は「じゃあ、ババ抜き?」と返ってきた。
こいつ──絶対わざとやってるな。
──「つまんねーじゃん、すぐ終わるし」
──「じゃあ、ジジ抜きにします?」
──「似たようなものだろ」
──「神経衰弱」
──「いいけど、本当にそれでいいのかよ」
また返信が来なくなった。たまたまスマホから離れているのか、それとも返信を考えているのか。
今度は2駅通過したところで、新しいメッセージが届いた。
──「よくないです。夏樹さんがほしいです」
(だよな)
お前、こっちの世界の俺のこと、大好きだもんな。
──「じゃあ、次楽しみにしてて」
それだけ打ち込んで、スマホを鞄につっこんだ。
その「次」を、俺は経験できない。
でも、それでいい。俺自身がそうなることを選んだんだから。
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