14・青野の家へ(その3)
青野の部屋は、2階の右側だった。ちなみに左側は、お姉さんの部屋らしい。
そうか、青野は「弟」なのか。うちとは逆だな。ずいぶん肝が据わっているから、弟か妹がいるのかなと思ってた。
「その……お姉さんは今日はいねーの?」
「姉は、大学のサークルの合宿に行っています」
「そっか……じゃあ、その……本当にふたりきりなんだな」
だよな、だから俺を家に呼んだんだもんな。
バカだな、ちょっと考えればそれくらいわかりそうなのに。
結局、クッキーの箱は途中で開けなかった。おかげで、青野から「エライエライ」とずいぶん軽めな褒め言葉をいただいた。
うーん……この反応だとちょっとわかんねぇな。結局、開けなくて正解だったってことか? クッキーを咀嚼しながら、またもやグダグダと考え込む。どうも今日は、頭を悩ませる日みたいだ。
それでも、そこからしばらくの間は当たり障りのない会話が続いた。放課後、ラッキーバーガーでおしゃべりをするときとほぼ同じノリ。学校がどうとか、昨日みた動画サイトがどうだったとか。
けど、時間が経つにつれて、俺のなかでソワソワするようなおかしな気持ちが芽生えてきた。
だって──もうすぐ日付変わりそうじゃん? いつ「そういうこと」をしてもおかしくないような時間帯じゃん?
青野は、あいかわらず「あ、この動画観ました?」って通常運転だけど、俺はもうそれどころじゃねぇよ。いつ「それ」が始まるかで、さっきからずっとハラハラしているよ。
(ああ、もう……ああ、もう!)
いっそ、お前の計画を教えてくれないかな! たとえば「今から1時間後にお風呂、その後部屋に戻ってきて電気を消したらはじめましょう」とかさぁ!
でも、当然そんなの訊けるわけがない。
だったらせめて気持ちだけでも落ち着かせようと、俺はクッキーの箱に手をのばした。
ところが、青野もクッキーを食いたかったらしい。
偶然、指先と指先がぶつかった。ラブコメ漫画も真っ青のベタベタな展開だ。
青野は、ごくふつうに「あ、すんません」って謝った。なのに、俺ときたら、とっさに手を引っ込めてしまった。
(……あ、ヤバい)
そう思ったのは、青野がきょとんとしたようにこっちを見たせいだ。
まずい。これはたぶん「こっちの俺」っぽいリアクションじゃない。
「あ、ええと、その……」
それでもなんとかリカバリーしようとした俺に、青野はほろ苦い笑みを浮かべた。「この間からちょっと思ってましたけど」──そう前置きして。
「最近の夏樹さん、なんか別人みたいっすね」
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