12・青野の家へ(その1)

 そんなわけで、様々な不安を抱えたまま俺はお泊まり当日を迎えることになった。

 待ち合わせは、青野の自宅の最寄り駅。初めて来たけど、駅ナカ施設が充実していて、時間をつぶすのに不自由しなさそうだ。

 メッセージアプリに「すみません、15分遅れます」と連絡があったので、ひとまず本屋で時間をつぶすことにした。そういえば、最近漫画を読んでいないな。もしかして、元いた世界とは展開が違っていたりするのかな。

 さらに雑誌コーナーを見てまわっていると、前々から気になっていたグラビアアイドルの子の表紙が目に入った。あいかわらずの、色白ふわふわマシュマロボディ系。ただ、瞳は緑色。そのせいか、元の世界で見たときとは微妙に雰囲気が違って見えた。いや、可愛いには可愛いんだよ? でも、俺としては青野の瞳のほうが──


「まだその女のことが好きなんっすか」


 いきなり、背後から声をかけられた。


「懲りないっすね、あんたも。その女、ミュージシャンとやりまくりらしいじゃないっすか」


 は!? なんてこと言うんだよ、お前。

 驚いて振り返ると、青野が白々とした顔つきでこっちを見ている。


「なんだよ、お前! へんなことを言うなよ!」

「へんじゃないっす。写真週刊誌にそう書いてありました」

「そんなの信じるなよ!」


 ていうかさ!


「まずは俺に言うことがあるよな!?」


 俺の指摘に、恋人はふてぶてしい態度を隠しもしないで「遅れてすんません」と申し訳程度に頭を下げた。

 くそ、今日のこいつ可愛げがないな。ムカついたから、さっきのは撤回。お前の瞳なんて、そのへんのヤツの大して変わんねーよ、バーカバーカ。


「それじゃ、行きましょうか」

「えっ……もう?」

「ええ。なにか不都合でも?」

「あ、いや……そうじゃなくて」


 やばい……まだ不安が解消されていない。

 けど、ここで断ったら明らかに「こっちの俺」らしくないよな。むしろ、こっちの俺なら「早くお前んちに行って一発やろうぜ!」くらいのことは言いそうだし。


「よ……よーし、じゃあ、行くか!」


 怯んでいるのを誤魔化すように、えいっと拳を挙げてみせる。


「……なんっすか、そのポーズ」

「うるさい。『早く行くぞ』のポーズに決まってんだろ」

「『早く行くぞ』って」


 あきれたような口調のわりに、青野の口元は明らかに緩んでいる。

 ──ああ、やっぱりこういうリアクションが好きなんだな。まあ、こっちの世界の俺っぽいもんな。

 ちょっぴり胸が軋んだけど、今は気づかないふりをした。だって、大事なのは「こっちの俺」になりきること。今はそのことだけを考えればいい。

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