2・恋愛遍歴
俺だって、ごくふつうの高校生だ。当然、これまで好きになった子は何人かいた。
初恋の相手は、同じマンションの中学生。当時小学生だった俺は、彼女が引っ越すと知った日、トイレに閉じこもって何時間もシクシク泣き続けて、最後はドライバーでむりやり鍵をあけた母ちゃんにしこたま怒られたものだった。
その次に好きになったのは同じクラスの女子で、3人目もやっぱり同クラの女子。4人目は隣のクラスの子で、5人目の子とはちょっといい雰囲気になりもした。まあ、野球部のエースにあっさりかっさわれたんだけど。
高校生になってからは、同じ委員会の子をひそかにいいなと思っていた。けど、3年生になってすぐに彼女には付き合ってるやつがいるって知った。まあ、そうだよな。あの子、すげー可愛かったし。
それ以降、特に想いを寄せる相手はいない。妹のナナセが、青野と仲良くやっているのをうらやましく思いつつも「俺は大学からが本番だ」って受験勉強に精を出していたのだ。
それなのに今、妹の彼氏として認識していた男に、毎日ぐるぐる振りまわされている。
この気持ちは、恋なのか。そう問われても、すぐには答えられそうにない。
なにせ、これまで好きになった女の子たちと、青野はあまりにも違いすぎる。
当たり前だけど性別が違うし、好みのタイプかと問われれば「うーん」といったところ。つーか、そもそも「男の好み」なんて考えたことがない。同じ理由で「好みの顔か」って訊かれても「なんだそれ」って感じだし。
あと、こっちの世界の青野って生意気なんだよな。たまに可愛いところもあるけど、基本的に生意気。
だから、いろいろ釈然としない。だって俺、優しくて素直な子が好きだったはずだし。
そんなことをグダグダ考えているうちに、6時間目の授業が終わり、放課後が訪れた。
スマホを取り出すと、メッセージが2件。
1件目は八尾からで「放課後どうする?」──
この「どうする」には、おそらくいろいろな意味があるんだろう。「瞑想に再チャレンジするか?」だったり「相談にのったほうがいいか」だったり。
そうだよな、まだ満月だから「再チャレンジ」は有りなんだよな。
けど、今はどうしてもそんな気になれない。
かといって、この心情を八尾に打ち明ける気にもなれない。だって、まだ混乱中だ。なにを相談すればいいのか、自分でもわからないんだよ。
というわけで、八尾には「サンキュ」のスタンプを送ったあと「今日はもう帰る」と打ち込んだ。すぐに既読がついて「了解」のスタンプが返ってきた。
八尾とのTLを閉じると、俺はもう1件のメッセージを確認した。
送信者は青野だ。「急用ができたのでお先に失礼します」──
正直ホッとした。今、青野と顔を合わせるのは気が進まなかった。どんな顔をすればいいのかわからないし、挙動不審になりそうな気もする。
あるいは恨み言をぶつけたくなるかも。「お前のせいで、元の世界に戻りそびれたじゃねーか」なんて。
(まあ、一晩あれば落ち着くか)
今日は、さっさと家に帰って寝ちまおう。こういう日は、とにかく寝るに限る。どうせ起きていてもろくなことを考えないし、ぐっすり眠って朝になれば、気分もスッキリしているはず──
なんて考えがいかに甘いかって気づかされるのは、翌朝、駅で青野と顔を合わせたときだった。
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