11・誠実であるために

 翌朝、駅に行くと青野が待っていた。

 昨日あんなめにあったのに、ちゃんとこうして迎えに来てくれるなんて、やっぱりこっちの青野も誠実なやつなんだろう。


(そう、誠実……)


 だからこそ、俺も誠実に返さないといけない。

 もっとも、これから俺がやろうとしていることが誠実かどうかは判断に迷うところだけれど。

 昨日と同じく、ナナセは「じゃあ、お先〜」と行ってしまう。ポンと肩を叩いたのは、きっと「仲直りしなよ」ってことだろう。

 うん、仲直り──とは違うけど、これからちゃんと青野に伝えようと思う。


「よう」

「おはようございます」

「あのさ、昨日はごめん。暴力をふるうとか最低なことをした」

「……そうですね」


 青野は、わずかに目を細めた。まるで俺の本心を探ろうとしているかのようだ。


「それで、あの……それで、なんだけど」


 さあ、ここからが勝負だ。

 がんばれ俺! 自分なりの「誠実さ」を示せ!


「あの、俺──俺さ、もうお前とは付き合えない!」


 まずは、まっすぐ目をそらさずにそう伝えた。


「ほんとごめん! でも俺、お前のことを恋人としては見られなくて!」


 青野の緑色の目に、俺が映っている。

 すごい、めちゃくちゃ必死。ちょっと自分でも引くくらい。


「とにかくごめん、別れよう!」

「……」

「これからお前は好きにしていいから! 他の子とも、その──付き合ったりしてもらって構わないから!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る