モブオタクの異世界戦記番外編 ~最強のヒーローと理の王者~

五三竜

第1話 日本召喚

 ある日、森の奥の城で男と女は椅子に座っておしゃべりしていた。そこは、どうやらその男の部屋らしいで、武器とかめっちゃ置いてあり、さらに、フィギュアが所狭しと並べられていた。壁には隙間が無くなるようにポスターが貼ってある。


「よくこんなもの作ったね」


 女はそう言った。


「魔法で一瞬だ。作ってやろうか?」


 男はそう言う。彼らはそんな会話を楽しんでいた。


 ここで一旦その男と女の説明をしよう。その男の名は月城つきしろ真耶まや。今はケイオス・レヴ・マルディアスである。


 ケイオスは真耶だった頃に日本の高校生だったのだが、ある日クラス全員と一緒に異世界に召喚されてしまった。だが、ケイオスはオタクだったためその知識を活かしてかなり強くなれると思った。しかし、モブだったため無理だった。


 ケイオスには仲のいい夜桜よざくらかなでという女がいた。だが、その女ももう居ない。召喚されてからずっと一緒に旅をしてきたが、この前真耶がケイオスでアヴァロンのラウンズの1人と知り、別れ敵対してしまった。


 まぁ、今はそんなこんなあってこうやって何人かで城を作って住んでいる。そして、紹介が遅れたが、この女はモルドレッド。ケイオスの妻だ。


 元々ケイオスがラウンズを辞めアヴァロンから地球に行く前に結婚する予定だった。しかし、途中でケイオスがアヴァロンから出ていったため、保留のまま終わっていたのを、今になってやっと式をあげることが出来たのだ。


 ま、それも正直なところを言うと、忙しすぎてあんまり自覚がない。もっと落ち着いた時にゆっくり式をあげようかと思っている。


 とりあえず自己紹介はこれくらいで十分だろう。


「ねぇ、真耶……じゃなくてケイオス、これ何?」


 モルドレッドは目の前にある物を指さして言った。どうやらさっき言った言葉はフィギュアやポスターの事じゃなく、この事だったらしい。


「これは時空間転移装置だ。魔力を込めれば転移出来るはず。どこに行くかは知らんがな」


「へ〜……ねぇ、やってみてよ」


「俺が?何で?」


「作ったってことはやりたいってことでしょ。だからお願いだよ。願望。要求。希望」


 モルドレッドはそう言って頭を下げてきた。


「仕方ないな。見てろよ」


 ケイオスはそう言って軽い気持ちで魔力を込め始める。そしてこれが、失敗だった。


「っ!?しまった!起動してしまった!」


「えぇぇ!?じゃあ私達どうなるの!?」


「どっかに召喚されるぞ。まずい、早く逃げないと……うぉあ!?」


「け、ケイオス!……て、きゃああああ!」


 なんと、ケイオスとモルドレッドはその装置が作り出した時空間転移のためのゲートに吸い込まれてしまった。


 周りが真っ白に染められる。到底目を開けていられるような世界では無い。


「モルドレッド!手を掴んでろ!」


「ん!」


 モルドレッドは、威勢よく返事をする。そして、2人はそのまま真っ白の空間を抜け、別の世界へと飛ばされてしまった。


 その時2人は気づいてなかった。別の場所でもう1人、ケイオス達と同じ世界に誰かが召喚されたのを……。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……ケイオス達は目を覚ました。どうやら光が強すぎて気絶していたらしい。目を覚ますとそこは、暗闇だった。


「……クッ……」


「け、ケイオス……ここどこ?」


 モルドレッドが怯えながら聞いてくる。だが、ケイオスにも分からない。と、言いたいところだが、どこか見覚えがある。


 それに、恐らくここは路地だろう。路地を抜けた先が夜なはずなのに、異様に明るくなっている。


「……ケイオス?どうしたの?」


「いや、俺はここに見覚えがある。この建物とか……とりあえず光の方へ向かってみよう」


「ん!」


 ケイオスはそう言って光の方へ向かった。すると、そこは建物などが立ち並ぶ都市だった。しかも、見覚えのある建物……。


「っ!?嘘……だろ……!」


「け、ケイオス!?どうしたの!?」


「フッ、やられたな。ここは俺が前にいた場所。……日本だ。それも、東京だ!」


「っ!?」


 モルドレッドは驚愕した。まさか、日本に召喚されたとは誰も思わない。ケイオス達は東京の街並みを見つめて言葉を失った。


 その時、ふと目の前の人だかりに目がいった。人々が何かに群がっている。ケイオスはその群がりの中心を世界眼ワールドアイを使い見た。


「っ!?俺の剣じゃねぇか。俺と一緒にこの世界に飛ばされたのか……」


 そこにはケイオスの剣が4本地面に突き刺さっていた。実際のところ、剣はケイオスと繋がっている。だから、必ずどこかに着いてくる。今回も、吸い込まれる時に着いてきたらしい。


「まずいな。人が群がってやがる。しかも、遠くから警察の声がする。モルドレッド、早めに剣を回収して退散するぞ」


「ん!」


 ケイオスはモルドレッドの返事を聞くと、口の前に手を垂直に置いて、ふぅっと息を吐いた。すると、とてつもなく濃い霧がその場を埋め尽くす。


「な、なんだ!?」


「なにこれ!?」


 人々はザワザワとざわめき出した。そんな中を真耶は駆け抜け剣を取りモルドレッドと一緒にどこか別の場所へと逃げた。


 そして、その場所から少し離れた路地で……


「ったく……日本人とはめんどくさい奴らだ。バズりを求めて何か特殊なことに群がる。アヴァロンやペンドラゴンではこんなことは無かったのにな」


「そうだね。それより、これからどうするの?」


「どうするって……帰るに決まってるだろ。あと、俺の事を真耶って呼んでくれ。今は真耶な気分だ」


「え〜、もっとこの世界を遊ぼうよ〜。いつでも帰れるんだからさ。てか、真耶な気分って何?でも、良いよ」


「助かるよ。それに、俺の願いを聞いてくれたんだ。仕方ない。特別だから……な……っ!?」


 突如真耶がモルドレッドに抱きついてきた。


「え!?え!?え!?ど、どうしたの!?」


「何者だ!?」


「っ!?」


 真耶の言葉にモルドレッドも異変に気づき、後ろを振り返った。すると、男が2人いる。その奥には眼鏡をかけた女性がいた。


「君達か。突如光の柱が東京に現れたと聞いたから慌てて来たんだけど……どうも、awaker覚醒者ではなさそうだけど」


「誰でもいいでしょ。捕まえればいいだけの事だから。”シフトチェンジ2速”」


 目の前の男はそう言うと、かなり速い動きで間合いを詰めてきた。


「いきなりだな」


 真耶はそう言ってモルドレッドを抱き抱えると上に向かってジャンプする。そして、壁に足をつき魔法を唱えた。


「”理滅りめつ変理へんり”」


 真耶はことわりを変え、ようにして壁に垂直で立った。


「っ!?凄いな。こんなの見た事ない!光!絶対に捕まえてくれ!」


 女性はそう言って楽しそうに目を輝かせる。


「待て、俺はお前らと戦うつもりは無い」


「悪いな。正体がわからないやつを放っておく訳にはいかないんだ。俺達はヒーローだからな!”シフトチェンジ3速”」


 光と呼ばれた男はさらに早いスピードで突っ込んでくる。真耶は、変えた理を元に戻しその場から離れた。しかし、気がつけば既に間合いへと入られている。かなり速い。


「そうか……本気で俺と戦うつもりか……」


「っ!?」


 その瞬間、光と呼ばれた男の体が弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「良いだろう。敵対するなら俺も本気で相手してやるよ」


 真耶はそう言って理滅王剣りめつおうけんリーゾニアスを手に取った。

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