第5話 幼馴染みの危機

『もう、もっちゃんなんか、捨てて他の男に走ってやるーーっ!!今から、相撲部の部室へ飛び込んで、最初にぶつかった人の彼女になってやるーーっっ!!』


そう言って、かのんは教室から走り去って行った。


「な、なんなんだよ。かのんの奴…!」


そりゃ、さっきは俺も自分の欲望を正直に言い過ぎたとは思うけど、自分から告白してきたくせに、思い通りにならないからって、すぐ他の男(しかも、相撲部員)に行こうとするなんて…。


本当は大して好きじゃなかったって事じゃねーか…!


俺は拳を握り、唇を噛み締めた。


「ちょっと、突張くん!かのんちゃん行っちゃったよ?」


「早く追いかけて!!」


かのんと仲の良い女子二人が、急き立てるように詰め寄って来たが、俺は顔を顰めて、そっぽを向いた。


「い、いいんだよ。かのんは、俺が好きだったんじゃなくて、デブな体形の男が好きだっただけなんだから。


デブな体形をあいつにバカにされたから、痩せてやったのに、今度は太れとか、訳わかんねー!!


相撲部員なら、あいつの好みにピッタリだろうし、俺だってもうあいつに振り回されずすむし、ちょうどいいじゃねーか!」


「そんなの本気なワケないじゃない!」

「そうだよ!突張くんがハーレムに入れとかひどい事言うから、ヤケになってるだけだよ!」


「ハッ。どうだかな…。」


「突張くんだって、本当は素直になれないだけで、かのんちゃんの事心配なくせに!」

「かのんちゃんの一言が原因でダイエット頑張ったんでしょ?本当は痩せた姿を見せて見直して欲しかったんじゃないの?」


「星宮さん、花澤さん…。」


かのんの友達に加え、星宮さん、花澤さんにも詰め寄られ、俺は怯んだ。


「かのんちゃんが、相撲部員の男の子とぶつかって、取られちゃっても本当にいいの?」

「そうよ!よく考えてみて?」


かのんが、相撲部員の男とぶつかって、取られてもいいかだって…?


モヤモヤする気持ちで、俺はその様子を思い浮かべてみた。


小柄なかのんが、でぷんとした相撲部の男にぶつかり、吹っ飛ばされ、弧を描いて落ちて行く様子が脳裏に鮮明に映し出された。


「いや、付き合うどうこう以前に、物理的に危ないだろ!!||||||||」


「ただでさえ、かのんちゃん、病み上がりなのに…!」

「かのんちゃんが死んじゃう…!」


「とにかく、早くかのんちゃんを止めなきゃ!」

「うん、急ごう!」


俺と女子達は慌てて相撲部室へと向かったのだった。



❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


《幼馴染み視点》


やっと再会出来たもっちゃんは、夏休み前にもっちゃんが言っていた通り、「ダイエットして、細マッチョになって」しまっていた…!

私は、大好きなもっちゃんのお肉が削ぎ落とされた事に涙した。


しかも、典型的なチャラ男の外見になっていたもっちゃんの周りには、既にクラスのカースト上位の星宮さん、花澤さんを始めとするハーレムらしきものまで出来てしまっていた…!


このままだったら、もっちゃんに彼女が出来てしまうのも時間の問題かもしれない。


危機感を持った私は、クラスの友達、ミヨちゃん、ユメコちゃんにも助けてもらい、長年の想いをもっちゃんにぶつけた。


『もっちゃん。小1の時、初めて会った時から、お腹の肉も含めてあなたの事が大好きです!どうか私と付き合って下さい。

そして、これからはダイエットなんかしないで少しずつでいいから、元のプルンとしたもっちゃんに戻って下さい!』


けど、それに対してもっちゃんの答えは…。


『もう一回太るなんて考える事は出来ない。それに、女子にもモテるしな。』

『彼女になりたいのなら、俺のハーレムに加わってくれれば、彼女候補の一人にしてやるよ。なっ。』


ヤケになった私は、


『相撲部の部室へ飛び込んで、最初にぶつかった人の彼女になってやるーーっっ!!』


と言い残して、教室を飛び出し、衝動に突き動かされるまま、相撲部の部室へ向かった。


「うわあああぁっ!!もっちゃんのバカァァッ!!木綿のハンカチーフくださあぁい!!あああぁっ!!」


そして、相撲部、部室の扉の近くまでやって来た時、突然中から扉が開いて、恰幅のある、相撲部員達、4名がのそりと中から姿を現した。


「…!!す、須毛先輩達!?ううっ…。すごい匂い…!☠」


すえたような匂いが4人の体から立ち昇り、私は思わず吐きそうになった。


もっちゃんの汗の匂いはこれよりひどくても大丈夫だったのに、なんでだろう…?




「おおっ。本当に一年のロリアイドル♡平野花音ちゅわんではないか!やるな!佐藤!鈴木、小林!」


「ハイ!突張の事を調べに教室へ偵察に行ったのですが…、なんと、奴は別人のように痩せてモテていて…!」

「平野さんの告白を蔑ろにし、ハーレム入りを勧めました!」

「そして、ショックを受けた平野さんは、『相撲部の部室へ飛び込んで、最初にぶつかった人の彼女になってやるーーっっ!!』と叫び、こちらに向かって来たので、我々が先回りをして、須毛先輩にお伝えした次第であります!」


須毛先輩よりひと回り小さいものの、でぷんと太い体形の三人の部員の人が、それぞれ声を張り上げた。


この人達、私ともっちゃんのやり取りを見ていたの!?


という事は…。


「花音ちゅわん。近くでみるとますます可愛いの…。ヌヘヘ…。」

「「「可愛いですよね〜♡♡ツインテールは男の夢です。ゲヘヘ…。」」」


「ひっ…!?||||||||」


私は、須毛先輩と三人の私を見るじっとりした視線に背中がゾワッとした。


「ふっ。我々の青春は、男同士、肉と肉でぶつかり合う事でしか得られないものと思って来たが、こんな、きゃわゆい彼女が出来るチャンスが巡って来るとは…!」

「本当ですね?須毛先輩♡」


「機会は皆、平等!誰が花音ちゅわんとぶつかっても、恨みっこなしだぞう?」

「「「ハイッ!!」」」


「位置について、用意、ドン!!」


ドドドドドドドドドド!!!


「花音ちゅわ〜ん、君の愛、我々が受け止めてやろう!安心してぶつかって来るとよい!!」

「「「花音ちゅわぁ〜ん!!」」」


「っ…!!||||||||」


ひどい匂いに鼻を両手で押さえながら、須毛先輩と、相撲部員達が不気味な笑顔を浮かべてこちらに突進して来るのを、私は蒼白な顔で見詰めている事しか出来なかった。


あ、私、死ぬんだ…。


今のあのでっぷりした相撲部の人の体当たりを受けたら、私の弱った体なんかひとたまりもないだろう。


もっちゃんとの思い出が、走馬灯の様に駆け巡った。


もっちゃんは結構毒舌キャラだけど、私がいじめられていた時は、お腹でいじめっ子を跳ね返して助けてくれた事もあったなぁ…。


ああ。私、バカだった。

もっちゃんのあのひどい匂いが大丈夫だったのは、好きな人の匂いだからだったんだ。


太った人が好きなんじゃなくて、好きな人の体形が好きなだけだったんだ。


今頃そんな事に気付いても、もう遅い。


来世では、もっと素直な幼馴染みになって、今度こそもっちゃんと結ばれたい…な…。


ドドドドドドドドドド!!!

怒ったオー◯の如く、相撲部の人達が、間近に迫って来るのを感じながら、私は死を覚悟して目を閉じた。


ラン、ランララ、ランランラン…。

ジ◯リ映画の音楽が物悲しく頭に鳴響いた時…。


「かのん!!」


もっちゃんの幻影が私に走寄って来た。


「も、もっちゃん…!!」


ああ、最後にもっちゃんの幻を見せてくれるなんて、神様ありがとう…!!


「お前ら、いい加減にしろ…よぉっと!!」


もっちゃんの幻影は私をお姫様抱っこすると、須毛先輩達が迫る直前で跳躍し、彼らをやり過ごした。


ドドォッ!

「「「「ぶごーっ!?」」」」


須毛先輩達は勢い余ってつんのめって倒れてしまった。


「いでで…!お、お前は、もしかして、突張…なのか?!」


「そうだよ!!かのんは俺の幼馴染みだ!!お前らなんかにはやんねーよ!!」


「も、もっちゃん?!///」


須毛先輩に凄むもっちゃんの声も匂いもやけにリアルなんだけど、もしかしてホンモノ?!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る