焔天の聖術師

猫まんま

第1章 焔醒天睡

第0話

 

<hecc,年hech月dv56日(xb gf)>


 死にゆく先で、私は全てを知った。


 知識では無い。心理、仕組み、世界の構築、それらを感覚的に理解したのだ。


 知って尚、私にはつまらないと感じる他無かった。


 何十、何百もの子供が出来た。

 家族という単位を作り出したのは、我ながら良行だったと自負している。


 だが、私はその単位に殺された。

 いや、正確には今、殺される途中にある。


 落下し続ける身体。風がこんなにも気持ちいいと感じたのは、初めて塀の外を出たあの日以来か。


 底無しの湖は青く光り輝き、初めて邂逅したあの時と同じ感動を未だに抱いている。


 思えばいく時、私は生きてきたのだろう。


 感覚すら無くなった時間の中、私は彷徨い続ける魚みたいでみっともないだろうか。


 全てを知りたかった。

 何故私達は存在し、

 何故この大地に流れるコアは、私と同化したのか。

 全てを知りたかった。

 その結果私の愛を失ったとして、

 私は全てを知りたかった。


 そして今、死に直面した中で私の私欲は漸く終わった。


 結果、それは非常につまらないものだった。


 失った者を取り戻す為に新たに得たとて、結果つまらないだけだった。


 私は何をしたかった?

 どうしたかった?


 …………

 ……………

 ………………

 ……………………ふっ、


 ふと笑った。


 そうか、結局答えはまだ出てなかったらしい。



<2008年11月20日(木)>


 ソレは明らかに確実に、目を覚ました。

 熱く燃える世界の中、ソレはゆっくりと起き上がり斜面に足を掛けた。


 ソレは世界を見た時、ここは何処だ?と最初の思考を抱いた。

 だが、ソレにとって思考というものを未だ理解していない。故に、ソレがした思考とはつまり呼吸のように当たり前の、しかし全く新しい、言わば現象に近かった。


 いつか見た世界は消え、夜に呑まれた暗黒には小さな光が灯っていた。


 ………………

 ………………あぁ、

 ……………………ぁぁ、

 ……………………あぁ、なんて、なんて脆いのだろう。


 ソレは静かに頷くと、喑天を仰いだ。


 いつか見た空は、こんなに汚かっただろうか。


 ………………………………………………そうか


 悟った。


 ……………………………………………もうないのか


 ソレは悟った。

 ここにはもう、自分が必要無いのだと。


 そうしてまた、ソレはゆっくりと穴の底へと落ちていった。



<2008年11月20日(木)hd%j時h*ew分>


 とけていく。とけていく。

 …………

 ………………

 ……………………

 …………………………わたしが少しずつ、とけていく。

 おおきなおくちのなかはとてもあつくて、いきがぜんぜん上手にできない。

 なのにわたしはぜんぜん死ねなくて。


 とけていく。とけていく。

 …………

 ………………

 ……………………

 …………………………わたしが少しずつ、とけていく。

 わたしがべつの人になるみたいで。


 とけていく。とけていく。

 …………

 ………………

 ……………………

 …………………………わたしが少しずつ、とけていく。

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