第43話 常識を持たない者


「あれって、まさか……あの男爵家に嫁いだという……」

「あんなに美人だったか? 流石に他人の空似だろう。」

「確かに私もそう思いますわ。以前シュバルツ殿下主催のパーティーで見たことありますが、あそこまで美しくは無かったわね」


 それでもやはり、わたくしの面影があるだけで以前までのわたくしと比べて美人へと変わりすぎている為、わたくしがシャーリーだと特定できている者は周囲の反応から見ても少ないようである。


 そしてわたくしは、周囲の視線を浴びながら『りむじん』から降りると、そのまま真っ直ぐにパーティー会場である王城入口へと向かう。


 ちなみに周囲からは挨拶もせず他貴族たちを無視するような形になってしまっている為馬無し馬車と、そこから降りてきたわたくしとソウイチロウ様に見入っていた貴族たちは我に返ったように「礼儀がなっていない」「あの無礼者はどこの者だ」「一度しっかりと躾ける必要がありそうだな」などと言い始めるではないか。


 恐らく、今までソウイチロウ様と出会ったことない貴族たちは、ソウイチロウ様を見て『最近貴族になったばかりの勲功爵、勲爵士、騎士爵か何か』だとでも思っているのであろう。


 故に、どの貴族も一番下の爵位である可能性が高い者に挨拶も無く無視をされて目の前を通り過ぎて行かれたとなれば面子とプライドが許さなかったのだろう。


 貴族という者はメンツとプライドを一番気にして生きており、それを新参者の自分よりも爵位の低い者にそのメンツやプライドがつぶされるというのは耐えられないのであろう。


 普通であれば殺されても仕方がなない場面ではあるのだが、今日は国王陛下主催のパーティー当日でありそのパーティー会場であり王城である以上武力行使に出るほどの勇気を持ち常識を持たない者はいないようである。


 ちなみにシノミヤ家は男爵であるので一番下の爵位ではないのだが、ほぼ一番下の爵位ではあるのでソウイチロウ様の正体を知ったところで彼ら貴族の態度は変わらなかっただろうし、現にわたくしたちの正体に感づいている者たちですら、気付いていない者たちと同様な態度を取っている事からも窺え知れるというものである。


「おい、何俺を無視して王城の中に入ろうとしているんだ? そもそも俺の許可なく入っていいとでも思っているのか?」


 ちなみにあらかじめソウイチロウ様からは何を言われても無言を貫くようにと事前に言われているため、わたくしも複数人の貴族からお叱りの声をかけられるのだがソウイチロウ様に倣って無視を決め込む。

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