第41話 呆けた表情が見えた


 そして、シュバルツ殿下とアイリスに、いやシュバルツ殿下とアイリスだけではなく、パーティーへ訪れた貴族全員この馬車と家が合体した乗り物で二泊して来たと言っても間違いなく信じてくれないだろう。


 それほどまでに王国と『にっぽん』との技術力に開きがあるということなのだろう。


 実際にわたくしも『にっぽん』へと訪れた時は目に入って来るもの全てに驚いていた程である。


 飛ぶようなスピードで走る馬無し馬車、空高くまで伸びる建物、夜でも煌々と輝く街並み。


 しかも『にっぽん』にはそれだけではなく空を飛ぶ鉄の乗り物まであるそうではないか。


 もしわたくしがシノミヤ家に嫁ぐ前であったら『空飛ぶ鉄の乗り物』などまず間違いなく信じなかったであろうが、今のわたくしはそれを聞いて『にっぽん』ならあり得ると納得してしまうほど、わたくしの中の常識は見事に破壊されてしまった。


 そして今度はわたくしではなく、わたくしへ無実の罪で婚約破棄を突きつけたシュバルツ殿下が『りむじん』を見て驚く番である。


 わたくしとしてはもっと度肝を抜かしてやりたいとは思うものの、ソウイチロウ様曰く国王陛下が何やら当日にサプライズを用意しているようなので、目立ちすぎは良くないだろう。


 その点も考慮した場合は馬無し馬車である『りむじん』が丁度いいくらいである。


 そんな事を思いながらわたくしはソウイチロウ様と同じ『りむじん』へと乗り込むのであった。





 王都を走る二台の黒光りする『りむじん』に平民だけではなく貴族もくぎ付けであった。


 そして当然シュバルツ殿下とアイリスも含まれており、わたくしとソウイチロウ様が乗っている『りむじん』を物珍し気に眺めているのが『りむじん』の中から窺える事ができる。


 ちなみにこの『りむじん』は中からは外が見えるのだが、外からは『りむじん』の中を覗く事はできなくなっている。


 初めは何らかの付与魔法かと思いソウイチロウ様へ聞いてみると、どうやら魔法ではないらしいのだけれども、分かったのはそれだけで結局どうやって作ったのか余計に分からなくなってしまった。


 しかしながらそのお陰でシュバルツ殿下の呆けた表情が見えたので、作り方は知らなくてもそれだけで大満足と言えよう。


 知ったところで作れるわけでもないですしね。


 ちなみにこの演出の為に貴族は一度皆が揃うまでは外で待機という事になっていたようで、ソウイチロウ様と国王陛下が楽しそうに悪知恵を働かせているのが容易に想像できてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る