第34話 器の小さなお方である


 それと共に、如何にこの建物が巨大であるかが窺えてくる。


 外で見た時も確かに大きいとは思っていたのだけれども、こうして中に入ってその広さを目の当たりにして今一度驚いてしまう。


 あれほど大きく、そして高さもある建物を建てられる技術は確かに凄いとは思うのだけれども、中はその巨大な建造物を支える為の柱が大量にあるものだろうと思っていた。


 しかしながら建物の中には目立った柱は見当たらず、想像以上に広い空間が広がっており、その中を大勢の人が買い物を楽しんでいる姿が目に入ってくるではないか。


 この光景を帝国の人に話したとしても、誰一人として信じる者はいないだろう。


 それどころか、ここ『にっぽん』で見たもの全て、食べた料理全て、信じてもらえない自身すらある。


 それほどまでに帝国とにっぽんとの差が離れすぎているという事だろう。


「どうした? シャーリー。 何か伝えたいことがあれば遠慮なく伝えてくれて良いからな? むしろ遠慮されて溜め込まれた方が困る」

「ありがとうございますわ。 ですが、ただただこの施設の凄さに圧倒されていただけですので、心配されなくとも大丈夫ですわ」


 そしてソウイチロウ様がわたくしを心配して話しかけてくれるので、わたくしは『大丈夫』だと答える。


 しかし私はその一言を答えるだけの事でかなり葛藤をしていた。


 そもそも『何か伝えたいことがあれば遠慮なく伝えてくれて良い』なんて事を聞いてしまったら、その一瞬でわたくしは色々な事を妄想してしまい、それら欲望をなんとか振り切って絞り出すように答える事ができたのである。


「そうか、それなら良かった」

「あ、あの……」

「どうした? やっぱり何かあったのか?」


 そしてわたくしは、それでもやっぱり先ほどの言葉をこれっきりにしてしまうのは惜しいという欲望が勝ってしまい、気が付いたらソウイチロウ様に話しかけていた。


 そんなわたくしにソウイチロウ様は優しく返してくれる。


 ただこれだけのやり取りでわたくしの心は満たされてしまう。


 シュバルツ殿下は、基本的に女性を下に見ている事が透けて見えているようなお方である為、機嫌が悪くなって終わりであっただろう。


 ソウイチロウ様のこういう何気無い行為一つ一つを見る度に、シュバルツ殿下がいかに器の小さなお方であるかが窺えてくる。


「い、いえ……その……今じゃなくても伝えたいことがあればソウイチロウ様にお伝えしてもよろしいのでしょうか?」


 そしてわたくしは勇気を振り絞ってソウイチロウ様に『伝えたいことがあればいつでも伝えても良いのか?』と質問する。

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