第33話 十分すぎる程の幸福感


 ただソウイチロウ様の腕にわたくしの腕を絡めただけである。


 ただそれだけの事でわたくしの心臓は壊れたかの様に鼓動が早くなり、足には力が入らず、顔はほてってしまい、まるでわたくしの身体ではないようである。


「……そうか。分かった。でも嫌ならば嫌と言って良いからな? 後嫁いで来たからと言って気負わないようにな。だが、何事にも順序というものがあると俺は思うんだ。だから最初は腕を組むよりも手を握る事から始めようか」

「は、はい……っ」


 そんなわたくしの頭をソウイチロウ様は優しく撫でながら『腕を組むのも良いが、まずは手を握ろう』と言い、わたくしの手を握ってくれる。


 たったそれだけの事で、ソウイチロウ様からわたくしの手を握ってくれるだけでわたくしは、とても幸せな感情になる。


 あぁ、本当にわたくしはソウイチロウ様の事を好きなのですわね。


 そう確信を得るのには十分すぎる程の幸福感であった。



 恐らくシャーリーは誘拐や監禁、拘束された事により加害者相手に好意や共感、信頼感情まで抱く症状、ストックホルム症候群を患っている可能性が高いのかもしれない。


 万が一俺に一目ぼれしているという可能性もないわけではないのだが、その確率が限りなく低い事を俺が良く知っている。

 

 シャーリーが俺の元へ嫁いで来た切っ掛けが切っ掛けであった為これ以上辛い思いをさせたくないと思っている俺は、シャーリーがやりたいと思っているのであれば腕組みの一つや二つしても良いのだが、ただこれには困った事があった。


 それはシャーリーの柔らかい部分が俺の腕に当たってしまっているのである。


 これは流石にどうにかしなければいけないと思った俺は、思考をフル回転して考え、何とか腕組みを回避する方法を思いついた。


 その結果シャーリーと手を繋ぐ事になったのは良いのだが、これはこれでシャーリーの柔らかくて小さな手が『女性』であるという事を俺に意識させてくるではないか。


 確かに腕組みよりかはマシではあるのだが、それはあくまでも『腕組みよりマシ』という程度でしかないという事である。


 シャーリーはどちらかと言うと地球では西洋寄りの整った顔立ちをしており、ぱっと見では二十歳前後に見えなくもなく、強い意志を持っていなければ簡単に惚れてしまいそうになるのを俺はグッと堪える。


 大人である俺がしっかりしないでどうする。


 そう俺は気を引き締めてショッピングモールの中をシャーリーと歩いていくのであった。



 当初こそソウイチロウ様に手を握られて、それ以外の事は頭に入って来なかったのだけれども、小一時間も経てば流石に少しだけ慣れてきて周りの景色を眺める余裕も出てくる。

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