第31話 今日から忙しくなるのう


 生の魚がこれ程までに美味しいものであったとは、もしソウイチロウ様の元へ嫁がなければ一生知ることは無かっただろう。


 そして、これまで食べて来たソウイチロウ様の故郷で食べられている料理はどれも帝国で食べていた料理よりも美味しく、このままでは帝国の料理では物足りなくなってしまいそうである。


 そんな事を思いながらわたくしは次々と『すし』を食べてはその美味しさに驚き、集中して味わいながら食べていく。


 驚いたのが、魚の種類によって味や風味、歯ごたえ等が全く異なるという事である。


 正直言うと種類は違えど同じ魚である以上やはり味は似ているものと思っていたのだけれども、まさかここまで違うとは思わず、どのすしを食べても今まで食べたことのない美味しさを最後まで堪能できたのであった。



 今日、待ちに待った総一郎からの返信が返ってきた。


 その手紙を受け取った余は早速手紙に書かれている内容を読み始める。


 そこには余の期待した通りの内容と、シャーリーの件の恨み節が書かれているではないか。


 後半はスルーするとして、余の期待を裏切らない返事に思わず口元が緩んでしまう。


 これは面白そうな事になりそうだと、我が息子へのお灸ではあるものの久しぶりに子供の頃に感じた好奇心が余の心を擽る。


 それに、いくら余の息子と言えども女性関係で問題を起こした時点で国のトップに立つ資格など無いだろう。


 そんな息子と知らずに皇位を譲り、ハニートラップ等に引っかかってしまい隣国へ帝国の弱みを握られたり帝国の国力を低下してしまうような未来と比べれば、そうなる前に気付けて良かったと安堵するくらいである。


 もしそうなってしまった場合は息子の首、最悪余の首まで飛びかねないので息子としても助かったというべきだろうが、恐らく女に夢中になり周囲や未来が見えなくなってしまっている息子であるシュバルツには何を言っても理解してくれないだろう。


 それが少しばかり寂しくもあるのだが、自分の行なった行動のツケは自分で支払ってもらうだけであり息子の自業自得であろう。


 それに、そうする事により周囲が息子に向ける負の感情も少しはマシになるだろう。これで息子も正気に戻れば良いのだが流石にこれ以上の事は面倒見切れない。

 

 さぁ、今日から忙しくなるのう。



今わたくしたちは『すし』を食べ終えて、来た時と同じようにバスという馬車に乗ってソウイチロウ様曰く『ショッピングモール』という巨大な施設に訪れていた。

 

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