第24話 涙が止まらなくなってしまう


「どうやら卵かけご飯は気に入ったようだな。 こちらの世界、というか日本人以外はかなり抵抗がある料理だから無理そうなら残すようにフォローに回ろうかと思っていたのだが、気に入ってくれたのならば良かった」


 そして、夢中に卵かけご飯を食べ進めているわたくしをソウイチロウ様は初めからずっと見ていたようで、ホッとしたような表情で声をかけてくれる。


 その表情だけでも胸がきゅんとするのだが、わたくしの事を思ってくれていたのだと思うと顔が真っ赤になり心臓の鼓動が激しくなって来るのが自分でも分かる。


 殿下と一緒に過ごしていた時はこんな事になった事が無く、初めての感覚でどうすればいいのか、どう暴走した感情をコントロールすれば良いのか分からずテンパってしまい、ただただソウイチロウ様を見つめたまま固まってしまう。


 わたくしは正直言ってあった初日に帝国民離れしたエキゾチックな顔立ちに一目惚れし、そして使用人からの信頼も厚い事は彼女たちを見れば一目瞭然であり、そこからソウイチロウ様の人となりが分かるというもので、そういう新たな部分を知れば知るほどどんどんソウイチロウ様の事を好きになっていく。


 しかしながらだからこそわたくしは同時に怖いのだ。


 確かにわたくしは帝国の中では自分で言うのもなんだが美人な部類であると思っている。


 でもそれは帝国民の中で美人の部類というだけであり、探そうと思えば似たような美しさの女性など一つの町に一人くらいは存在するだろう。


 それに、冤罪であるとはいえわたくしは問題ありと婚約破棄をされた側の人間である。


 わたくしの事を良く思っていない可能性が高く、間違っても『わたくしと同じように一目惚れしているかも』などという夢物語などあり得ないという事はわたくしが一番知っている。


 そう思うとなんだか悲しくなってきてしまう。


 ソウイチロウ様の前だけではせめて気丈に振る舞い、婚約破棄や急に婚姻させられて見知らぬ土地へと嫁がされた可哀そうな娘だと思われないようにと思っていたのだけれども一度タガが外れるともう駄目だった。


 鳴き声こそ出さなかったのだが、涙は抑えようとしても止まることなくぼろぼろと両の目から流れ落ちてくるではないか。


 冤罪をかけられ婚約破棄された事がムカつく訳でもない。


 見知らぬ土地、合った事も無い殿方に嫁がされることは確かに最初こそ不安ではあったものの、ソウイチロウ様と出会った瞬間にそんな不安など消し飛び、むしろ運が良いとさえ思っている程だ。


 婚約破棄をされ有無を言わさず嫁がされたことが悲しいわけでもない。


 しかしながら良く分からない感情が激しくわたくしの胸の中で暴れまわり、涙が止まらなくなってしまう。

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