第22話 完成された一つの料理


 卵かけご飯を食べたからと言って死ぬわけでもなければ、嘘の罪状をでっち上げられてパーティー中に晒上げられるかのごとく婚約破棄されるわけでもないのだ。


 そう思えば卵かけご飯を食べる事くらいなんてことない事のように思えてくるし、実際にそれらに比べれば容易い事である事には変わりない。


 わたくしは意を決して卵を手に取ると皆がそうしたように机の角で卵にヒビを入れ、ライスが乗った皿(茶碗)の上で割り卵を落とし入れる。


「あら、結局食べる事にしたんですね。 初めは加減が分からないでしょうから初めに私が醤油を入れてあげますね。あと、この赤パンダの魔法の粉や粉状にした鰹節、めんつゆ等をお好みで少し入れてみても美味しいですよ。もし卵かけご飯が気に入ったのならば次からは自分好みにそれら調味料などを使ってみることをおすすします」


 そしてわたくしが意を決して生卵をライスの上に落としたところでミヤーコがショーユという調味料をかけてくれながら卵かけご飯に合う調味料などをおしえてくれるのだが、ショーユ含めてどの調味料も聞いたことがないものばかりで、どんな味の調味料なのかそれはそれで興味がそそられる。


「はい、どうぞ召し上がれ。 もし味が薄いと思ったのならば醤油を少しずつ足していって調整してくださいね」


 そんな未知の調味料についどんな味がするのだろう? と想像しているとショーユをかけてくれた後混ぜてくれた物、卵かけご飯の完成形をわたくしの前に置いてくれる。


 生卵を混ぜるという時点でどうなんだ? とは思うのだが、それとは別に生卵をライスにかけて混ぜるだけというものが、はたして料理と呼べるだけのポテンシャルをもっているのかという事についても正直言って懐疑的である。


 しかしながらそれら疑問は目の前にある卵かけご飯を食べれば解決する問題である。


 そしてわたくしはスプーンを手に取ると卵を纏い黄金色に光る卵かけご飯を救い、目を閉じながら口へといれる。


 その瞬間わたくしの口のかなには卵の甘さにご飯の甘さ、そこに醤油という尖った塩味と旨味が加わり、一つのハーモニーが繰り広げられるではないか。


 まさに完成された一つの料理と言える代物であった。


 正直な話、実家で食べる手の込んだ料理と引けを取らない、なんなら上位に余裕で食い込む程の美味しさであると言っても過言ではないだろう。


「どうやらその表情を見るに気に入ってくれたみたいですね。あ、ちなみに赤パンダの魔法の粉と粉状にした鰹節はかけても塩辛くなる事は無いので試してみますか?」

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