10🏡ガクの過去💓

オカン🐷

第1話 赤いワンピースの女

「ガクさんったら何処行ったのかな。一人で出歩けるようになったらフラフラと出て行って」

「今、仕事が忙しいから息抜きしたいんやないの」

「だったらレイと話をしてくれてもいいじゃん。最近、仕事中は3階からシャットアウトなんだよ」


 カチャリと扉の開く音がした。


「ママー、ただいま。大変、大変、ガクちゃんが喫茶店で女の人と、あっ、レイちゃん、いたんだ」

「何、ガクちゃんがどうしたの?」

「いや、女の人と会ってただけで、仕事の話かもしれないし」


 遼平は慌ててフォローするも虚しく、レイとナオはクローゼットに向かった。

 ナオはエプロンを外し、お団子頭を崩し、髪をおろすと帽子を被った。

 レイも以前、浅草で買った金髪のヅラのついた帽子を被った。


「リョウ、悪いけど、もうすぐルナが帰って来るから出迎えてあげてね」

「えっ、ママたちどこ行くの?」

「ちょっと偵察に。お留守番お願いね」


 ナオは素通しの眼鏡、レイにはサングラスを渡した。

 別に足音を忍ばせる必要もないのに、そっと、それでいて迅速に歩いた。


「ナオさん、ドキドキしてきた」

「うちもよ。でも尾行は得意なん」


 近所の小洒落たカフェの奥の席に、ガクと赤いノースリーブのワンピースの女性がいた。


 レイは後ろ向きの席に座った

 オーダーを取りに来た店員に小さな声で言った。


「アイスコーヒー2つ」


 メニューを見ていたレイは、せっかくだから変わったものを頼みたかったとブツブツ言う。すると、奥の席から声がした。


「ナオさん、レイちゃん、紹介するよ」

「えっ、ばれてたん。おかしいなあ」


 ナオは眼鏡を外し、帽子を脱いだ。

 立ち上がり、奥に席を移した。


「ぼくの耳は騙せませんよ。ぼくを誰だと思っているんですか?」

「しもた、マスクしといたらよかった」

「レイちゃん、こっちへおいで」


 ガクの隣にレイを座らせると、


「今、話していた、ぼくに角膜を1つくれると言った奥さん。こちら、ぼくが失明した途端、アメリカへ逃げて行った中条真奈美さん」

「何もそんな紹介の仕方しなくても」

「本当のことだろ。レイちゃん、妊婦さんはあまりコーヒーは飲まない方がいいから、それぼくがもらう。レイちゃんはフルーツパフェでも頼む?」


 そうやった。焦ってたから何も考えんとオーダーしてもうた。

 ガクさんは細かいことに気がつく人やわ。


「レイちゃん、美味しい」

「うん」

「あーん」


 レイはアイスをひと匙すくうとガクの口に入れた。




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