超?ショートショート置き場
元住吉菜々緒
歌うヘッドランプ
「この兜、ひょっとして灯りになるのか?」
「そりゃまぁ、ランプが付いてますからね。ヘッドランプ。しかしお兄さんお目が高いね。これは伝説の探検家、ホリグチの遺品なんだ」
(ホリグチって誰だ……)
冒険者アレスは付け加えられた情報に少し混乱したが、ダンジョンに松明を持っていく手間がなくなるのなら便利だなと思い直し、このヘッドランプ付きの兜を買うことにした。
「まいど!」
アレスは、50ゴールドのところを49ゴールドにまけてもらい、大して安くなってないなと思いつつも、兜とともに帰路に着いた。
「それじゃあ、こいつの力を試してみるか」
アレスは家に帰ると早速兜を被った。カチっという音が鳴り、魔力の流れのようなものを感じた。
「お、いいね、光るか?」
アレスが期待した次の瞬間……
♪我はーランプの精霊ー♪
ヘッドランプは光ることなく、歌が聞こえ出した。
「なんじゃこりゃー!」
♪ランプは光るだけじゃないー♪
「いやいや、歌わなくていいから!」
♪ノーミュージックーノーライフー♪
「てか、普通に喋れないの?」
♪無理ー♪
「シンプルな返答!」
そんなやりとりのような、ヘッドランプの歌を聴いていると、今度は
ドンドンドンドン!!!
アレスの部屋の扉を叩く音が響く。
「ちょっと何時だと思ってるの!静かにして!」
「す、すいませーん!」
アレスは兜を脱いだ。魔力の触媒を失ったヘッドランプは静かになった。
「たしかにだいぶ迷惑なアイテムだな。こりゃ、明日ダンジョンに行って試してみるしかないな」
次の日、ダンジョンに着いたアレスは例の兜をかぶった。
♪ここは暗いなー♪
「灯りを付けてくれよ」
♪自分で松明を持ったらー♪
「はぁ?」
どうやらヘッドランプの精は光るつもりがないらしい。しかし、せっかくダンジョンまで来たので手ぶらで帰っても仕方がない。アレスはダンジョンに潜ることにした。片手に松明を持って。
♪背後からーゴブリンー♪
意外にもヘッドランプは少しだけ役に立っていた。と、同時に常に歌っていることで、敵に自分の位置を知らせてしまうデメリットも大きかった。とはいえ、アレスもベテランの冒険者であるから、襲い来る敵を片っ端から倒せば良いだけ。ゴブリン退治は捗っていた。
「おっと、調子に乗って普段一人では来ない深さまで来ちまったな」
ダンジョンはなぜか浅い階層ほど敵が弱く、罠も少ない。兜の援護が効果的なのは戦闘で十分有利なときだけだ。
「だいぶ稼いだしそろそろ戻るか」
アレスが帰ろうと踵を返した時
ゴゴゴゴゴ……!!!
ダンジョン全体から轟音が鳴り響いた。
「罠?!」
遠くでダンジョンの壁が動くのがかろうじて見えた。どうもダンジョンが形を組み替えているらしい。
「参ったな」
アレスはかれこれ4時間ほど、ダンジョンの中をさまよい歩き、戦い続けた。連戦で体力を使ったことも問題だが、最後の松明がもうすぐ燃え尽きてしまうことがより面倒だった。暗闇での戦闘は夜目が効くゴブリンが圧倒的に有利だからなおさらだ。
♪松明がー切れるよー♪
「おまえは呑気だな」
ヘッドランプとそんな会話をしていると、いよいよ松明は燃え尽きてしまった。
♪ゴブリンが来るぞー気をつけろー♪
「気をつけろってもねぇ」
ゴブリンとの戦いは熾烈を極めた。いままで松明を持っていた手に盾を持てることで、壁を背にしていればなんとか相手の攻撃をしのぐことは出来る。しかし、それだけでは決め手がない。
♪右から来るぞー気をつけろー♪
一か八かで右に剣を薙ぎ払う。手応えアリ。
「よし!一体!」
♪あと5体〜さらに3体左からやってくるー♪
ヘッドランプのナビゲーションは的確だったが、歌での指示だけで戦うのは苦しく、ゴブリンは数を増していく。一気に数を減らせない以上、ゴブリンをすべて倒しきるしかない。しかし、このダンジョンにゴブリンが何体居るのか、全く把握できないというか、そもそも数に上限がないかもしれない。もしそうなら一気に突破を図らないといつか終わる。
「さすがに苦しいか。ところでヘッドランプはどうやってゴブリンを把握しているんだ?」
限界が近いことを感じていたアレスだが、ふと疑問を感じたのだった。ヘッドランプは夜目が利くのか?
♪音でーわかるのさー♪
「音……?」
♪耳を澄ましてー音を聴けばーなんでもわかるー♪
♪集中してー♪
「集中……」
アレスは音に意識を集中する。主に聞こえるのはヘッドランプの歌だけだ。
♪空間の音を聞いてー♪
「はっ!」
アレスの剣がゴブリンを捉える。アレスにはなぜかはわからなかったが、ゴブリンの位置が聞こえるのだ。最初はなんとなくだったが、徐々に明確に、ゴブリンたちの位置や動き、姿勢などまで細かく聞こえてきた。そうなってしまえば、そもそもアレスは強い。時間はかかったがなんとかゴブリンの群れを退けることができた。
エコーロケーション:コウモリやイルカが超音波を発し、その反響で周囲の物体の距離や大きさを知る能力
歌うヘッドランプはこのエコーロケーションよろしく、歌の反響を聴き取って周囲の状況を知ることが出来たのだった。そして着用者のアレスにもその感覚がある程度コピーされる。しかし習慣とは恐ろしいもので、目で見て判断することに慣れていると、なかなか新しい感覚に頼ろうと思えない。松明が消え、死を覚悟する状況になって、人はようやく新たなことに挑戦出来るのだ。
その後、アレスはエコーロケーションを頼りにダンジョンから脱出した。そしてヘッドランプの力を大いに活用し、多くの難しいダンジョンを攻略した伝説の冒険者として、そして歌ううるさい兜をかぶりパーティの仲間から迷惑がられた存在として、有名になったという。
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