第27話 外界へ
ブルーティアは、ふっふっふっ、と少し何かを企むような悪い顔になった。
「そこが、Gランクの醍醐味よ。世間のヤツらは、お前を嘲笑い見下すだろう。実はオールSランクとほぼ同等の強者だと知らずにな。そして、お主は、そいつらの度肝を抜いてザマァするのだ」
裕人は、ブルーティアの足元に落ちている本を見た。それは現世にあるライトノベルや漫画だった。本来この世界にないものだが、裕人のスマホに、雪代の異世界スマホから転送された本をこの世界の紙に転写したものだった。
内容は無能と思われていたスキルが実は有能で、見下したヤツらを見返すといったものが多かった。ブルーティアは、こういう類の話を随分と気に入ったらしい。
「……ザマァするとか面倒臭いから、俺はどうでもいいんだけど」
「何を言うか! お主はお主をゴミ扱いした連中を見返したくはないのか!」
裕人はガチャの燕尾服の支配人を思い出した。あの支配人は確かにぶん殴ってやりたいと思った。が。
「そりゃ、最初は腹が立ったけど、数ヶ月経った今では別になんとも……。そんなことよりも、俺は早く現世に帰りたい」
「面白くないやつめ。まあよい。それよりも、ラノベとやらをいくつか読んで気になったことがあるのだが」
「なんですか?」
「異世界召喚モノのいくつかは、元の世界に帰れないのが多いみたいだが」
「なんでそういうこというんだよ! クラスのみんなは帰れて、俺だけ帰れないってなんかありそうなだけに、マジでやめて!」
そんな言い合いをしていると、裕人のポケットのスマホに着信が入った。待ちに待った雪代だった。ビデオ通話で出ると雪代の顔が映った。さらに、電話の向こう側のクラスメイトたちも見えた。
「比嘉くん。久しぶり。調子はどう?」
雪代たちからしたら昨日のことだが、現世での二十四時間は、こちらでおよそ二十四日になるようだ。だから、毎回久しぶりと言う。
裕人は近況報告をした。とうとう、このゴミ世界から出て現世に戻るための旅を始めることも話した。
クラスメイトたちのどよめきが聞こえた。
「おお! ここから強くなった比嘉のチート無双物語が始まるわけだな! 俺も無双してみたい!」
「……そういうのは、漫画とかアニメで充分だな。俺は平穏無事な日々と小さな幸せの積み重ねで充分だ」
「お前には厨二心がないのか!」
そんなやりとりが聞こえたが、裕人もそんな厨二心は持ち合わせていなかった。普通の生活ができれば充分だ。だから、外の世界に出ても、できるだけ目立たずひっそりこっそり旅して現世に帰る方法を探すつもりだった。
「……それにしても長かったな。異世界にいるのに、全然冒険せずに、ゴミ世界でひたすらゴミの分別って。そんな物語があったら、俺なら飽きて途中で読むのやめるな」
「そうだな。俺もやめるな」
何故だろうか。それを聞いて、裕人はとても切なくなった。
「ところで、ゴミ関連スキルがあがっていったい何を作れるようになったんだ?」
聞いたのは藤堂だ。実は、それを聞かれるのを待っていた。
裕人は含み笑いをし、胸を張って答えた。
「雪代さんの『神物創造』には到底及ばないけど、基本何でも創れるよ。Sランク相当の剣とかも創れるし、魔具を使ったゴーレムなんかも余裕だ」
魔具とは、魔力を組み込んだ道具のことだ。
この世界では、魔法の代わりにそういった物がよく使われていた。
要するに、照明器具や冷蔵庫などの電化製品が、電気ではなく魔力を帯びたもので動くといったものだ。
裕人は自分の創ったロボット型ゴーレムを自慢すべくスマホの画面に映してみんなに見せた。
ブルーとシルバーのメタリックなロボットがそこにあった。
主に男子たちから驚愕の声が多くあがった。
「うおお! お、お前、マジか比嘉!」
「凄え! おま、コレ、車が変形してロボットになるアレにソックリじゃねーかよ!」
「いや、確かに似ているが、よく見ると違うな。なんか色々なロボットアニメのものも使われていそうだ。比嘉、コレ動くのか?」
藤堂が画面に顔を近づけて聞いた。興奮しているのか、目がキラキラしているように見える。
完璧超人の彼にも、少年のような部分があって、裕人は少し好感を持った。
「もちろん」裕人は機械様式ゴーレム向けて手をかざし、魔力を流し込んだ。
静かに立ち上がる機械音とともに、ゴーレムが動き出したのを見て、男子たちの歓声が上がった。
「うおおー! スッゲエカッケェ! 俺も動かしてみてー!」
「いいないいな! 比嘉、俺は今ほどお前を羨ましいと思ったことはねぇ!」
盛り上がる男子たちの後ろで、女子たちが冷めた顔で肩をすくめているのが見えた。
「男子ってこういうの好きよねー……」
「わたしにはわからん世界だわ」
……女に、この少年のような男心はわからんよ。
咳払いして、雪代が話を戻す。
「それじゃ比嘉くん、気をつけて。何か困ったことがあったら電話するのよ。この異世界スマホなら色々と情報も集めることができるから」
「うん。ありがとう、雪代さん。絶対に元の世界に帰るよ」
「おう。待ってるぜ、比嘉」
藤堂が親指立てて、そして画面にクラスメイトみんなが映るようにした。
「頑張れよ、比嘉」
「頑張ってね、比嘉くん。挫けないで」
言って手を振るクラスメイトたち。
「みんな、お前の異世界武勇伝を楽しみにしてるからな」
藤堂の言葉に、みんなが複雑そうな顔になった。
「……いきなり魔神倒したお前がそれを言ってもなぁ」
「……比嘉の活躍が霞んで見えてしまうから、お前はなるべく発言すんなよ」
「お前らひどいな! 文句なら、俺にチート能力つけたやつに言ってくれ!」
笑いが起こった。裕人も笑った。
「じゃあ、行ってくる」
通話を切って、裕人はブルーティアを見た。
「今生の別れの挨拶はすんだな」
「もう会えないみたいな言い方やめてよ! いつでも話せるしビデオ通話で顔も見れるし!」
「冗談だ。あと、わたしの顔も見たくなったらいつでもくるがよい」
何故か偉そうに腕組みをして言うブルーティア。
裕人はわかっていた。彼女はこの世界でずっと一人でいて寂しかったのだ。
裕人も彼女がいなければとっくにのたれ死んでいた。
……それに、性格はともかく、美女で身体のラインがよくわかるぴちぴちのタイトな服装は、色々と目の保養になった。
「わかった。時々顔を見にくるよ」
下心込みでそう返事する。たぶん、彼女はそれも見透かしているだろうが、何も言わなかった。
「よし。それじゃ、行くがよい」
裕人は頷いて、右手を前にかざした。すると、地面に魔法円が現れた。この魔法陣も、魔力を使ってこの数ヶ月でできるようになった。
そこに裕人は入った。
さあ、ここからが本番だ。
この世界を旅し、さまざまな情報を得て、現世のみんなの力も借りて、必ず現世に帰ってやる。
裕人は固く決意し、そして魔法陣の中に入った。
第一章 終
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