第5話 魔神登場そして……
展開が急過ぎてついていけない。
体育の授業中に、突然一クラス分異世界召喚されました。
ガチャカプセルの中にいました。
藤堂と雪代がとんでもないチートスキル持ちの激レア中の激レアでした。
魔神を倒してくれと頼まれました。
その魔神がいきなり現れました。
……脳の処理速度が追いついていけない。
皆が唖然とする中、魔神ディアドレイが低い声で言う。
「この国を滅ぼそうかと思って出向いてみれば、何やら強力な力が次々と出現したのを感じてな。興味が沸いたから来てみると、どうだ。何とも面白そうなオモチャがあるではないか」
そう言って、クラスメイトたちを見渡す。
裕人はその眼を見て全身の細胞が泡だったのを感じ、終わりを意識した。ウサギがオオカミを目の前にした時、カエルが蛇に睨まれた時、彼らはこんな気持ちになるのだろうか。
それは、クラスメイトたちも同じだったろう。目の前の突然の大災害になす術がないように、絶望するしかなかった。
そこに、笑い声がした。藤堂だ。
「どうした? 気でも触れたか?」
「いや、これ、もう笑う所だろ? 召喚されてわけわからんままに魔神倒してくれって言われて直ぐに、その魔神がやってきて」
確かに笑うしかない。絶望を感じると人は笑うのだと、裕人は思った。
「んで、お前を倒して直ぐに元の世界に帰るってさ、これが物語だとしたら、どうなんだこれ?」
その言葉に、クラスメイトたちが藤堂を見る。
「みんな、何を俯いているんだ? こいつ倒せば帰れるんだぞ? ちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ!」
何故こんな場面で笑えるのだろう。何故、藤堂はこんなにみんなの恐怖を打ち砕いてくれるのだろう。
これが『英雄鼓舞』のスキルの効果なのだろうか。
裕人を除いた全員の目に、戦闘の意思が浮かび上がった。
藤堂晃は負けない確信があった。
ディアドレイに言った言葉は、虚勢でもなければ自惚れでもなかった。先ほどの自分のステータスを見て、自分が特別だという思いもない。そもそも、凄いスキルだと言われても、よくわからない。
それでも、負ける気がしなかった。これが、スキルのおかげなのか加護のおかげなのかはわからないが。
「力の差がわからないとは不憫なものだな」
ディアドレイが腕を動かした。掌をこちらへと向けようとしたのだろう。その時には、藤堂の身体が勝手に動いていた。
スキル『危機感知』と『身体強化極』が同時に発動したらしい。
気づけば、ディアドレイの腹に、藤堂の拳がめり込んでいた。凄まじい衝撃派が周囲に発生し、ディアドレイは壁へと叩きつけられた。
青い血反吐を吐くディアドレイ。
おそらく魔神は何かしらの攻撃をしようとしたのだろう。それを『危機感知』で感じとり、『身体強化極』で攻撃される前に、こちらが攻撃したのだ。
藤堂は自身の能力に驚愕したが、直ぐに冷静になってディアドレイを睨みつけた。
こんな簡単に倒せる相手ではないこともわかっていた。
「ちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ」
藤堂が軽口ではなく本気でそう言ったのが、雪代綾葉にはわかった。
さすがはクラスのリーダー。惚れてしまいそうだ。
だけど、彼に惚れることはない。残念ながら、雪代のタイプではないからだ。周囲には似合いのカップルになれるのに、と良く言われるが、リーダー気質の男性とは正直馬が合わない。
どちらかというと、雪代は──。
それはともかくとして、藤堂の自信は、雪代にも理解出来た。おそらくは、『スキルの叡智』によるものなのだろう。彼の持つスキルがいかに規格外であるかがわかった。
だから、彼の次の行動の為に必要なことをする。
雪代の持つ『スキルの叡智』は、スキルの効力を全て把握するというものだった。よって、『神物創造』がどんなものかも理解できたし、直ぐにを発動させることが出来た。
まずはイメージ。魔神を打ち滅ぼす強力な剣を想像する。そして、それを目の前に具現化。これだけで、唯一無二の最強の神剣が出来上がった。
それと同時に、ディアドレイが何かをしようとして藤堂に吹っ飛ばされて壁へとめり込んでいた。
一瞬の油断もしてはならない。次に雪代が出来ることは……。
『みんな聞いて!』
『以心伝達』を使い、雪代はクラスメイト全員に直接頭の中に声をかけた。
『みんなが持つスキル、『戮力協心』はみんなが藤堂くんに祈り応援すれば、それが彼の力になるスキルよ! だから、彼の為に無事を祈って! 応援して!』
「え、マジで?」
「あ、これってあれ? オールフォーワンってやつ?」
一人はみんなの為に、みんなは一つの目標の為に。祈り、応援が藤堂の力の糧となる。
「藤堂くん! これを!」
後ろから雪代が何かを投げてきた。彼女のスキル『以心伝達』で直ぐに理解して、振り向きもせずに、藤堂は飛んできた剣を掴んだ。
スキル『装具の悟り』によって、その剣の情報が頭に流れ込んできた。
剣など扱ったことなどない藤堂であったが、神剣の導くままに構える。
「虫けらどもがこざかしい!」
ディアドレイが壁の瓦礫を吹き飛ばしてこちらを睨みつけた。
「一瞬でこの国ごと滅ぼしてくれる!」
魔神の全身が赤く光り輝いた。凄まじいエネルギー量だ。大地が揺れ大気が震える。
「させないわ!」
雪代の声がした。彼女は両手をディアドレイへと向けて、そのスキルを発動する。
『神王の結界』により、ディアドレイの身の回りに幾重もの光の壁が出現した。
「こんなもので我の力を防げるとでも!」ディアドレイは力の一部を放出して光の壁にぶつけた。が、びくともしない。
「そのまま動けないようにするわ!」
結界を前後左右上下から挟み込み、ディアドレイを身動き取れない状態にした。
「ぐ! こんなもの! 我が本気になれば!」
ディアドレイの肉体がさらに赤熱を帯びて力が解放され、結界が弾け飛んだ。
「貴様らもう許さぬ! 虫けらの分際で楯突いたことを悔やむが良い!」
「お前、言ってることめちゃくちゃだな」
先制攻撃しようとしたり、国を丸ごと吹き飛ばそうとしたりして、それを防いだら楯突いたとか言われて。
「消えてなくなれぇー!」
ディアドレイの渾身のエネルギーが右の掌へと収束していく。
「だから、させねーっての」
藤堂は神剣を突き出すように構えて、一直線にディアドレイに向かった。
先ほどから力が湧いてくる。クラスメイトの期待と祈りが力となって藤堂の身に注がれているのを感じた。
『一意専心』。確か、一つの目標に対して完全に集中している状態のことを指す言葉だ。そのスキルに、みんなの想いが乗ってくるのを感じた。
ディアドレイの攻撃が為されるその瞬間には、その腕が宙へと舞っていた。
舞のように流れる動きで、剣閃が揺らめく。
ディアドレイの胸には幾つもの線が入っていた。そして、そこから青い血が吹き出す。
「おのれおのれおのれぇー! こ、こんな事が、こんな事があってたまるかぁ! 我はこの世の頂点に立つ魔神ディアドレイだぞ! 人間風情に負けるはずがぁーー!」
「残念だったな」
「運が悪かったと思って倒されて」
いつのまにか藤堂の横に、雪代がいた。
神剣を構える藤堂。
拳を腰の位置に構え、正拳突きの構えをとる雪代。
二人の渾身の一撃が放たれる。
光が満ちた。
「……バカな」魔神の最後の言葉がそれだった。
そして、凄まじい轟音が響き渡った。
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