第2話 ガチャ
「な、何だここ?」
気づけば裕人たちは、人一人が入れる丸い球体のようなものに入っていた。
その球体は腰の辺りくらいまでが灰色で、上半分が半透明だ。
ただ球体の下半分の色が幾つか違った。
裕人のは灰色。他には、白、銅、銀、金、虹とある。
「な、何だよこれ! いったい何がどうなってる!」
クラスメイトの男子が叫んだ。球体の中で声がこもっていて聞き取りにくい。
「ふざけんな! ここから出せ!」
球体を叩いたり蹴ったりするが、壊れそうになかった。
裕人の近くに体育教師の鶴見がいた。目を閉じて「これはアレだ。夢だ。きっとそうに違いない」とブツブツ何か言っていた。
「ね、ねえ、下の方に誰かいるわよ」
女子の言葉で、みんな下の方を見た。この球体は高い位置にあった。
裕人も下にいた人物を見た。西洋風の貴族の服を着た男女が見える。
歴史の教科書で、見たことのある服装だ。エリザベス女王などが着ているような服に似ている。他にもバッハやモーツァルトが着ているような服装や髪型の者もいる。
「彼らに助けを呼ぼう!」そう言って声をあげたのは、鶴見だった。
「おーい! 助けてくれ!」
何度か声を張り上げるが、聞こえないようだ。
「くそ! いったい何なんだ! 何がどうなっているんだ!」
誰かが先程と同じ台詞を繰り返す。
誰もが状況を飲み込めない中、「なあ」と誰かが言った。
藤堂だった。彼の球体の色は虹色である。
「俺たちの状況……。これってさ、アレに似てないか?」
「アレって?」
「ソシャゲの……ガチャにさ」
『あ』何人もの声が重なった。
「え、ちょっと待って? ガチャってどういうことだよ? 俺たちガチャのカプセルの中にいるの?」
「ちょっと待て! そんなわけないだろう! 現実に考えてあり得ないだろう!」
「……だけど、ガチャってさ、異世界のキャラクターとかも召喚したりするんだよね?」
誰かが言う。
「あれはゲームの中の話だろ! お前らもっと冷静に考えろ!」
「じゃあさっきの光は何だよ! あれが異世界からの召喚によるものなら辻褄は合うだろう!」
「合わねえよ! 最近のラノベに染まりすぎだ! 異世界よりも宇宙人とかの仕業の方がまだ納得できるわ!」
「どっちも現実味ねぇよ!」
裕人は何も発言出来なかった。大きな声で自分の意見を言ったり主張するのは苦手だった。
泣き出す女子。喚くクラスメイト。そこに藤堂がパンッと大きく柏手を打って、自分に注目を集めた。
「みんな混乱する気持ちはわかる。俺だって不安で仕方ない。だけど、ここで喚いていても仕方がない。このカプセルのようなものだけど、通気性はあまり良くないようだから、あまり興奮はしない方がいいみたいだ。それに、下にいる人たちがどんな人で、何が目的かも分からない。これからどんな事が起こるか分からないのだから、無駄に騒がないで体力は残しておいた方がいい」
藤堂の言葉に全員が黙った。そして──。
「お前の言う通りだな。今はジタバタしてもどうしようもねぇ。いざ、ジタバタする為の体力は残しておかないとな」
さすがは藤堂晃。カリスマ的存在。到底、裕人には真似できない。
こうして、クラスメイト全員は、とりあえず事の成り行きを見ることにした。
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