異世界置いてけぼりゴミスキル奮闘記

巧 裕

第1話 光

 そこは、見渡す限りゴミしかない透き通った海の中のような蒼い空間だった。

 上空からは、ゴミらしき物体が、そこかしこからゆっくりと、水中に沈むようにたゆたいながら落ちてくる。

 学生ズボンにカッターシャツの比嘉裕人ひがひろとは、カプセルの中で三角座りをしてそれを見ていた。

 何でこうなったのだろう。

 現在に至るまでに起きたことが色々とありすぎて、脳の処理が追いついていない。

 呆然とした状態で、裕人はおよそ2時間程前のことを思い返した。



 雲一つない快晴。

 午後の青空の下、グラウンドでは、体育の授業で青いジャージの上下に着替えた生徒たちが二チームに分かれてサッカーをしていた。

 青少年たちの煌めく汗。響く掛け声。両チーム白熱した戦いが繰り広げられている。

 時刻は13時30分。

 運動場のフィールドを駆ける生徒たちと違い、学生ズボンにカッターシャツの裕人は、それを校舎の影に座り込んで一人で眺めていた。

 昔から虚弱体質で激しい運動は禁止されているため、体育はもっぱら見学になる。今は5限目の体育の時間だ。

 退屈な時間だった。この時は、自分の虚弱さを恨めしく思ってしまう。一応スマホはポケットに入っているが、当然見学中は禁止である。

「藤堂! 頼む!」

 生徒たちから声がした。

 一人がゴールに向かって走り出し、パスされたサッカーボールをドンピシャのタイミングでシュート。弧を描きボールは、ゴールネットに突き刺さった。

「藤堂君カッコいい!」

 少し離れた場所で赤いジャージで授業している女子生徒たちから黄色い声援が飛んだ。

 彼女たちは高飛びをしていた。

 その中でも一際際立つ雰囲気を纏った女子の姿を見つけて、裕人の胸は高鳴った。

 彼女の名前は、雪代綾葉ゆきしろあやは。背中までの長い髪、整った顔立ちの校内一の美少女である。しかもただ美人なだけではない。空手部主将で県大会で優勝している猛者でもあった。

 告白する男子は数知れず。そして、未だに付き合ったという話は聞かない。

 裕人もまた想いを抱いてはいるが、所詮高嶺の花。最初から諦めている。

 彼女に、もしも釣り合う男がいるとするならば。

 先程華麗なシュートを決めた藤堂晃とうどうあきら。サッカー部のエースである。顔良し運動良し成績良しの三拍子プラス性格良しの完璧な男子生徒。誰もが一目置く優等生である。

 藤堂は光る汗を拭い、仲間の生徒たちとハイタッチを交わしていた。

「さすがサッカー部エース」「すげえな」「あの角度から決めるとかないわー」

 などと称賛の嵐。中には、身体をくねらせて「惚れてまうわー。抱かれたいわー」などとバカなことを言っている男子生徒もいる。

 実に楽しそうだった。あの輪の中に入りたかった。

 だが、身体が弱いこともあるが、裕人はあまり他人とはコミュニケーションがうまい方でもなかった。だから、高校生活であまり仲の良い友だちはいない。まあ、みんなとは普通に話したりはするけども。

 成績は中くらい。ごく普通の顔立ち。良くも悪くも目立たない存在。

 別に自分を卑下するつもりはない。虚弱であることに関して不満はあるが、日常生活に支障は無いのでそこまでの不満はない。

 同じ歳であまりにスペックが違う藤堂と比較するのは、考えるだけ無駄なのでしない。

 この先の人生、おそらく、なんとなく生きてなんとなく結婚してなんとなく人生終えるんだろうな。そんなことを裕人は考えていた。……その結婚相手が雪代であれば最高なのだが。

「お、おい、何だ?」

 突然、グラウンドで誰かが戸惑うような声がした。

「お、お前、体が光ってるいるぞ?」

「お、お前も光ってる!」

「おいおい! 何だよこれ!」

 クラスメイトたちを見ると、全員が確かにその体が光り輝いていた。

 そして、裕人自身の体も同じ事が起きている。

「な、何だよこれ?」

「お、落ち着け! 何が起きているか分からんがパニックになるな! こ、これはアレだ! 科学的に説明出来るアレだ!」

 そう叫ぶスキンヘッドの体育教師だが、自分もパニックになっている。

 そして、それは女子たちも同じようだった。

「い、いや! な、何なのよこれ!」

「何が起きているの!」

 光はだんだんと強くなっていき、そして裕人も含めその場にいた全員がグラウンドから姿を消した。

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