掌編小説・『おやつ』

夢美瑠瑠

(これは、8月2日の「おやつの日」にアメブロに投稿したものです)



掌編小説・『おやつ』



 私は、離人症で自閉症でHSPでASPで、しかしIQだけは妙に高いという変人で、長いこと家に引きこもっている。

 前は太り気味だったが、コンビニスイーツとかの食べ過ぎで糖尿病になって、今はガリガリなのだ。

 好きでたまらないのに、甘いものを食べるのは禁忌タブーで、四六時中「甘いものが食べたい~ウ~」と唸っているというような日常なのだ。


 精神が不安定なので甘いものに依存して、そうして病気になって、精神の病気が治ったわけではないから、甘いものにずっと禁断症状を起こしている。ちょっとくらいなら…と思ってスイーツを食べ始めて、結局食べ過ぎて、高血糖の予防のつもりのインシュリンを打ちすぎて、結果意識が混濁してきて救急車を呼ぶ羽目になったり、いろいろヒドイ目にばかり遭っている。

 

 ちょっとした美女で、やせすぎだが若くて上背うわずえもあるので、ライブ配信などをすると、「モデルですか?」とか聞かれる。アルバイトは続いたためしがないのでこのライブ配信だけで食いつないでいる。美貌で饒舌、というのはライバーにとってもってこいの得難い適性で、配信は基本的になんのスキルもいらんから楽で面白くて、天職だなあ?と思う。


 何とかして思う存分に甘いものを食べて、で、糖尿病にも悪くないようにするというそういう算段はないものか?

 その日も、私は暇に飽かせてそういう埒もない空想に耽っていた。

「主食をお菓子にして、カロリーメイトを副食にすれば、カロリー面と、栄養が両立できる。懐も痛まない。でもそういう人工的なカンブツ?ばっかりで健康に害はないかなあ…?灌仏会に奸物が勢ぞろい…あ、これは邪念やねんw それに”思う存分”とはいかない。…」

 考えた挙句に”シュガーメイト”とかいう人工甘味料があるけど、あれで自分でお菓子を作ったらいいのかな?というアイデアが浮かんだ。

 ”シュガーメイト”というのは、甘味だけで、カロリーがほとんどないという、糖尿食用に開発されたアイデア商品?だ。 

 で、他にもネットとかで調べたら、糖尿病や痩せたい人向けの、血糖値やらカロリーやらがあまり高くならないレシピがあるのではないか?とも考え付いた。お菓子作りが趣味とかそういうわけではないが、料理自体は嫌いではないので実現性に難もない。

 

 私は、基本凝り性で、自分でも”研究者”とか”求道者”タイプで、つまり職人肌…高機能自閉症の性格の美点はそこだと思う。

 小学生のなりたい職業になったりするので、”パティシエ”というのは魅力的な面白い仕事だろうと思っていたが、なるほどにお菓子作りというのは病みつきになる程に面白い。

 最初は高カロリーにならないように、というところにのみフォーカスしていて、見栄えとか味は二の次だったが、上達してこつを呑み込んでくると、いろいろに食紅などの材料を集めて色合いなどで美しくお飾りをして味や香りなどをいろいろ工夫して、ちょうど紫ナントカという和菓子の職人で、素晴らしく芸術的に美しい和菓子の”作品”をネットやテレビで見た覚えがあるが、そういう風な本格的なアーティスティックなお菓子作りの”道”、に踏み込むというのか、大げさに言うとそれくらいに「糖尿食お菓子」作りに打ち込むようになってきてしまった。(文章でもわかるように私にはパラノイアックないびつさもあるw)


… …


 After all ,「太らない」が「栄養価が高い」、食事に代替し得るスイーツ、そういう発想を得たことで、私は糖尿病、人格障害、甘いもの依存、そういう”三重苦”を逆手にとって、一種の”自己実現”をも成し遂げたのだ!


 なぜなら三年後の「LIFE」というアメリカの雑誌の”世界を動かす100人”の一人には、私、”亜麻伊夢子”が選出されたのである!

 

 ”「亜麻伊夢子」。…独創的で芸術的なセンスに満ち溢れ、そうして健康への配慮という点でも最も先進的で現代的なスイーツを創造するパティシエ”…記事の中の説明には、そういう麗々しい、名誉あふれる謳い文句が冠せられていた。


 <了>

 

 

 

 

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