第12話 僕は妖怪配信者

 僕たちは神社に戻った。

 長は封印帳の説明をしてくれる。


『この封印帳を開いてな。『まいったか?』と聞くんじゃ。相手が『まいった』と言ったらこの帳簿に封印されるんじゃよ。これを降参宣言こうさんせんげんという』


 じゃあ、


目目連もくもくれんに降参宣言をさせて、『まいった』と言わせればいいんですね?」


『そういうことじゃな』


 でも……。


「どうやって?  目目連もくもくれんは強いですよ?  毛毛丸けけまるが噛みついても効かないんです」


『ふぅむ……』


 長は本棚を睨んだ。


『確かこの辺に……。おお、あったあった』


 長が取り出したのは一冊の本。

 すごく古い感じだ。


『この神社を作った陰陽師が書いたんじゃ』


「おんみょうじってなんですか?」


『偉い坊さんだと思えばいい。不思議な術を使うんじゃよ。……確か、この古文書に……。ふむふむ』


 古文書には難しい漢字がいっぱい書いてあった。

 

 はぁ……。

 あんな漢字だらけの本が読めるなんて、長ってネズミだけど賢いんだなぁ。


憑依変化ひょういへんげの術を使うんじゃ』


「なんですかそれ?」


『2人が合体する無敵の術じゃよ』


「が、合体? 僕と 毛毛丸けけまるが?」


「うむ。 毛毛丸けけまると優斗の心が繋がった時に、この技は使えるんじゃよ』


「合体するとどうなるんですか?」


『無敵の妖怪人ようかいじんになれるんじゃ』


「おお……」


 なんかすごいな。

 妖怪の人間だから妖怪人か。


毛毛丸けけまるが『憑依ひょうい』と言った後に、優斗が「変化へんげ」と言うんじゃ。そうすれば憑依変化が完成して、妖怪人、毛魂童子もうこんどうじの誕生じゃ』


「……もうこんどうじ」


『やってみればわかるじゃろう』


  毛毛丸けけまるはノリノリだ。


『おお! 優斗。やってみようぜ!』


「……う、うん」


『んじゃ、俺からだな。憑依!』


「へ、変化……」


しぃーーーーーーん。


 あれ?

 なんにも起こらないぞ?


『気持ちが一つになっとらんからじゃろう。心を一つにするんじゃよ』


 それから三十分くらい色々とやってみたが、まったく変化はなかった。


 心を一つにするって難しいんだな。

 とりあえず、 目目連もくもくれんが現れたら、この術と封印帳を使ってなんとかしよう。

 術は練習あるのみだな。

 家に帰ってもやってみよっと。


 もうすぐ夕方だけど、少しだけ時間があるからな。


「雲外鏡を撮影させてもらってもいいかな?」


『オラ〜〜なんか撮ったってなんにも〜〜。面白いこと〜〜。ねぇ〜〜だよ〜〜』


「いやいや。鏡に映った場所に一瞬で移動できるなんてすごいことだよ。じゃあ、撮影するね」


『オラ〜〜。褒められたの〜〜。初めてだぁ〜〜』


 今日は妖怪をたくさん撮影できたぞ。




 僕たちは家に帰った。


「あら、がんばって撮影してきたのね。それじゃあ、お母さんが編集して動画をアップしてあげるわ」


 アップとは動画を配信サイトに掲載する意味みたいだ。

 編集っていうのは動画の加工作業。文字や効果音、BGMをいれてくれる。

 そういうのは母さんがやってくれるんだ。


 次の日。

 僕が起きるとお母さんはあわてていた。


「ちょっと、優斗! 昨日アップした動画がすごいことになったわよ!」


「人気出たの?」


「金魚童と羽織ネズミがスナック菓子を食べてるところをアップしたんだけどね。その反響がものすごいのよ」


「へぇ。再生数はどれくらい?」


 そういえば牛田がよく自慢してるんだよね。

 千再生もすればすごいことみたいだ。


 母さんはノートパソコンの画面を見せてくれた。


 そこには僕が昨日撮った動画がアップされていた。

 その再生数……。


「あれ? ゼロが何個あるんだこれ? 一、二、三、四……」


 ひゃ、百万!?


「百万再生だってぇええ!?」


「チャンネル登録者だってすごいんだから」


 そこには十万人の表示。


「じゅ、十万人……」


「この調子だと日本一有名になる可能性が出てきたわね」


「ぼ、僕がぁ?」


「チャンネル登録者十万人の小学生なんて滅多にいないもの」


「た、確かに……。聞いたことないかも」


 人気者の杏ちゃんでさえ、千人くらいだからな。

 少なくとも、僕の通う学校にはいないな。


「ふふふ。優斗が頑張って撮影してきた成果ね」


「……うん」


 そうか、 目目連もくもくれんを怖がって外に出てなかったら、こんなことにはなってないからな。

 なにごとも行動することは大事なんだなぁ。

 

 動画にはコメントもたくさんついていた。

 ほとんどが妖怪に向けられたコメントで、『可愛い』とか『ちょっと怖い』とかなんだけど。中には配信者の僕に向けられたモノもあった。


『もっと色んな妖怪を撮影してください』

『妖怪をていねいに解説してるのがいい』

『これは世界初の妖怪動画! すごい!』

『妖怪配信者だね』

『しゃべり方が上手い!』

『優しそう! 妖怪と友達なんだね! うらやましい!』


 うう……。

 これはなんか照れるな。


「妖怪配信者なんてカッコいいじゃない」


「う、うん……」


「世界初よ」


 ぼ、僕が世界で初めてか……。

 なんかすごいことをやってしまったんだなぁ。


「動画配信ってね。広告がつくんだけどね。そこに料金が発生するのよ」


「んーー。動画を始める時に宣伝の動画が流れるよね。あれのこと?」


「そうそう。あれが一回流れる度に広告収入が得られるのよ。プロの配信者は広告料金で収入を得ているのね」


「僕も収入をもらえるのかな?」


「そうね。百万再生もされてるんだもん。たくさんもらえるわよ」


「やったーー!」


「はーーい。でも、お金のことはお母さんに管理させてね」


「えーーーーーーーーーー」


「当然でしょ。あなたはまだ小学生なんだから」


「うう。確かに」


「それにお金に関する難しい手続きができるでしょうか?」


「できません。母さんにやってもらってます」


「ふふふ。そうよね。なのでお金はお母さんが管理します。たくさん収入があったら将来のために貯金するからね」


「うん。ありがとう」


「でも、なにもないのも問題よね。そこで、お小遣いを三百円、アップしようと思います!」


「えええええええええ!? 本当!?」


「お母さん、嘘つかない」


 と、いうことは現在のお小遣いが月々五百円だから、そこに三百円をプラスしてぇ……。


「は、八百円ですかぁああああ!?」


「そういうこと」


「やったーーーー!!」


 がんばって動画を撮って良かった!


「逆さベッタラの動画は、まだ編集が終わってないの。それがアップできたらもっとチャンネル登録者は増えるわよ」


 ふぉおお!

 まだ、増えるのか!


「チャンネル名もユートチャンネルから妖怪配信チャンネルに変更しておいたわ。そっちの方がわかりやすいでしょう」


「ありがとう!」


 僕は妖怪配信者だ。


 うぉおお!

 やる気出てきたぞーー!

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