第7話 なんかバズった
母さんは目を見開く。
「チャンネル登録者は……。に、二万人!? 完全にバズってるわね」
バズってるか……。
この言葉ってテレビとか学校でよく聞くんだけど意味はよくわからないんだよね。
「ねぇ。バズるってどういう意味?」
「バズるってのは流行り言葉ね。ハチがブンブン騒いで飛んでいるのを英語で「buzz」っていうのよ。そこからネットで人が騒ぐことをバズるというようになったの。要するに話題があるってことね」
「へぇ……」
じゃあ、僕の生配信が人気が出てるってことか。
「すごいわよ優斗! 一体、どんな生配信をしたのよ!?」
「あ、いや……。その……。大した動画じゃなかったと思うけど……」
「動画は二十分ね。学校までは時間があるから一緒に観てみましょうよ」
「ああ……う、うん」
どうしよう。
このままじゃあ妖怪のことがバレちゃうよぉ。
案の定。
動画はバッチリと
そして、ネズミ神社に入ったかと思うと、部屋の天地が回転。
逆さベッタラが現れて、最後は瓢箪ネズミが顔を出した。
『わんわん!』
ああ、出番はいいけど、
しかし、そんな不安もなく。
動画は携帯の充電切れによって、
よ、良かったぁ……。
まぁ、彼は残念そうだけどね。
『わぅ〜〜』
母さんはプルプルと震えていた。
お、怒ってるのかな?
そりゃ、そうだよね。
僕はタガメを撮影するって言ったんだからさ。
妖怪を撮っているんだもん。
怒って当然だよね。
「優斗ぉおおおおおおおおお!!」
「は、はい」
僕は頭を下げようとした。
「ごめんさな──」
その時。
「すごいじゃないーー!」
「え?」
あれ?
怒ってないのか?
「妖怪の動画なんて見たことないわ!」
「そ、そうかな?」
「ネットでもあなたのチャンネルの噂が広まっているわよ!」
「そうなんだ……」
「特殊メイクがすごいって絶賛してる人が大勢いるわ!」
「特殊メイク? そんなの使ってないけど?」
「ふふふ。ネットってそういう所なのよ。妖怪なんて、すぐには信じられないわよ」
「……か、母さんも信じてないのかな?」
「まさか。私は信じるに決まっているじゃない。優斗がそんな器用なことができるわけないでしょ」
「あ、うん……」
喜んでいいのかな?
「すごいわ! 優斗!」
「お、怒ってないの?」
「なんで怒るのよ?」
「だって……。タガメを撮影するって言ってたからさ」
「妖怪の方がすごいじゃない! 世界初よ! こんな映像。よく撮影できたわね!」
「うん……。なんか、妖怪の住む世界に迷い込んでしまったんだ。ここは妖怪の住む場所でね。ネズミ神社っていうんだ」
「へぇ〜〜」
母さんは何度も巻き戻して動画を見ていた。
妖怪のシーンは手を叩いて大喜び。「妖怪って本当にいるのねぇ〜〜」と感心してから満足げに笑った。
「優斗は本当に偉いわね」
「なにが?」
「姫井ヶ森の名前を言わなかったもの」
これは母さんに注意を受けていたからね。
「あなたが地名を言わなかったらか、ネットではこの森の場所が知られていないわね」
「それがいいことなの?」
「当然でしょ。もしも、妖怪がいる森、なんて世間に知れ渡ってみなさいよ。たちまち大人気になるわよ。大勢の人たちが押し寄せてね。森の中は、捕獲網やカメラを持った人間で埋め尽くされてしまうわよ。今頃、姫井ヶ森は大パニックになっていたわね」
「うわぁ……」
そんなに人が大勢いる姫井ヶ森は嫌だなぁ。
「だから、優斗は偉い! ちゃんと私のいうことを守ったわね」
「う、うん」
「これで牛田くんに自慢できるじゃない」
「え?」
「牛田くんはチャンネル登録者数二百人。あなたのはチャンネル登録者数二万人なんだからさ」
「あ、いや……」
多すぎるんだよな……。
不必要な恨みを買いそうで怖いよ。
僕がこんな動画を撮ったことを牛田に自慢したら……。
『優斗だけずるいぞ! 俺にも妖怪に合わせろよな! ネズミ神社に俺を連れて行け!』
ってなるよねぇ。
「自慢なんてできないよぉ。そんなことをしたら妖怪の存在も、この森のことも世間にバレてしまうじゃないか」
「あら、それもそうね」
「でも、ふふふ……。優斗がすごいことには変わりないわよ。だってチャンネル登録者二万人なのよ? こんな小学生、なかなかいないわよ」
「う、うん……」
そうだった。
僕のチャンネルが二万人もの人が観てくれてるんだった。
「ふふふ。有名配信者になった感想を一言お願いします」
えーー。
「なんか照れるなぁ」
お母さんは拳をマイクに見立てて僕の口の前に持ってきた。
「一言どうぞ」
「う、うれしいです」
「おめでとう。優斗!」
「うん。……ありがとう」
「……配信者。やって良かったでしょ?」
「うん!」
本当だ。
タガメは撮れなかったけど、母さんのいうとおり、チャレンジしてみたらこんなにすごいことになっちゃった。
やっぱり、何事もやってみなくちゃわからないんだ。
「あら、もうこんな時間。朝ごはん食べて、学校に行く時間よ」
「う、うん」
僕は朝食のパンにかぶりついた。
「行ってきます!」
僕はランドセルを背負って学校に向かう。
その中には、
『へへへ。オイラ、学校に行くのが初めてなんだよなぁ』
教科書の隙間に真っ白い毛の塊になって詰め込んでいるのは
「なんで君まで学校に行くんだよぉ」
『
「僕を守ってくれるのはありがたいけどね。絶対にバレないようにしてよね」
『おう。任せとけ!』
うう、ちょっと不安だ。
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