セエ女転セイ ~魔力に目覚めたら性感を与える力だった~

テンチョウカンパニー

一章

第1話 覚醒

楽採村ガクサイソンレン、懲役四ヶ月に処す」

 裁判はなかった。

 治安課の役人が罪状を読み上げたあと、刑罰を言い渡す。最後に書類に判を押し、連行する刑務官に渡して終わりだった──。




「俺は冒険者になる」

 そう言う男と一緒に街に出てきた。

 最初こそ、コツコツ仕事をこなしているようだったが、次第に働かなくなり、いつの間にか養う側から養われる側へと変わっていた。

 

 楽練ガクレンは住居近くの食堂で働いていたが、男が初期投資として使った借金の返済もあり、彼女の稼ぎだけでは生活はできなかった。

 よくある話のように春を売る店で働き出した彼女だったが、そこは役所の許可を得ていない違法店だったものだから、勤め始めて一週間で摘発され、逮捕された──。


 なぜ違法な店を選んだのかと問われ。

「給料が良かったから──」

 と答えてしまう。


 田舎の平民には名字がない事も多い。

 彼らはその必要に迫られるとき、出身地の字をとって代用する。

 楽採村から楽をとって、楽練。

 それが今世の彼であり、ダメ男のために人生を壊した馬鹿な女の名前だ。




 楽練は不快さの中にいた。

 それはこれからの刑務所生活に対する不安も勿論もちろんであるが、一番は彼女自身の内面に起きた大きな変化が原因であった。


 逮捕された日、楽練は絶望した──。

 だが、そのふちに立ったとき、忘れていた何かを思い出すような感覚に襲われた。

 それは一瞬ではなく、ひとしきり、いつまで続くのか?と思える程の時間で、治まったときには彼女は違う楽練だった。


 楽練は生まれる前の自分、前世を思い出してしまった。

 しかし、十九年と十ヶ月の人生により彼女の人格は完成されており、前世の自覚があるからといって、それで既にあった自分が崩壊するという事は起きなかった。

 また記憶も、家族といえば今世のそれ、友も彼女が築いてきた関係のそれ、常識もまた同じだった。

 今世の記憶によって、前世のそれが上書きされてしまったのだろう。

 だから、楽練にとっては過去というよりも、夢を見たあとの名残のように感じられた。


 それでも、もう一人分の存在感は彼女の頭をかき回すのには十分で、全ての価値観をぐちゃぐちゃにされたような感覚だった。

 また、前世は男性だったようで、それも楽練のアイデンティティーに大きな影響を与えていた。


 既に育ったみきや枝葉は変わらずとも、これから伸びるそれは、以前とは異なるだろうという予感が、彼女のストレスとなり苦しめた。




 刑務所に入り最初の三日。

 初日は検査やら説明やらで二日目から作業に入ったが、刑期四ヶ月の人間がやらされる仕事は炊事場で、これなら以前とあまりかわらないなと楽練は思った。

 三日目は明日が休みに設定されてるらしく、仕事は午前中までで午後はずっと自由時間になっていた。


──飯屋は休みなしか。

 楽練の居る炊事場は明日も仕事があり、今日も昨日と同じ時間まで仕事をした。


 自由時間といってもする事がない。特に疲れている訳でもないが頭の中を整理したいのもあって、壁にもたれて座り、目をつぶってじっとしていた。


──なんだ?

 気配を感じ目を開けると囚人たちが楽練を取り囲んでいた。

 訳もわからず彼女たちを見ていると。

「お前、便器のくせして嫁やってるらしいな」

 のある女が口を開く。

 便器は娼婦って事で間違いないだろうが、嫁は何であろうか?

 そもそも何故知っているのか──。

 看守が漏らしたか、どこかで盗み聞いたのかも知れない。

「嫁って?」

「飯作る奴らのことさ」


──ああ・・

 楽練は納得しつつ。

 作業内容にも、何か格があるのだろうか?と思った。

「で、なんですか」

「便器が作った飯とか最悪だと思わないか?」

──まぁ、そうだな。

 言葉通りの想像をし、妙に共感した。


「みんなさ、アンタのせいで気分悪いんだよね、ストレス溜まっちゃてさ。責任とってもらえるかな」

「どうしろと?」

 楽練が言うと。

 女は待っていたとばかりの表情を浮かべて。

「是非ね、専門家に手伝ってもらいたいんだ──」

 そう言ってズボンを下ろし股間を突き出す。


「ムズムズすんだよ、何とかしてくれよ~」

 小馬鹿にしたような抑揚よくようをつけて言い放つ。

 取り囲んでいる他の連中もニヤニヤとしながら「プロの技見せなよ」などと笑い合う。


 何を要求してるのかは分かった。

 そして、断ればどういう目に会うかも想像が付いた。

 しかし、今の楽練はそれどころではない。

 内側から込み上げてくる問題で手一杯で、それ以外が至極どうでもいい状態だった。


「──ッせ」

 相手をする気がかないためか、楽練の声は、ぜんぜん音になっていなかった。

 なので、少しはらに力を入れ──。

「くせぇ──。マジくせえぇ、古い魚みたいな臭いがする。気持ち悪いオッサンのが、これよりまだマシだったわ」

「外からコレなら、中はもう使い物にならないんじゃない?」

 思いのほか、朗朗ろうろうと言葉が出てきた。


 しばしの静寂せいじゃく──。

 その無音を認識したかどうか、というタイミングで女の平手打ちが楽練を襲った。

──グーじゃないんだ。

 などと悠長ゆうちょうな事を考えてる間に倒され、おおかぶさられて、髪をつかまれ何度も頭を叩きつけられた。

──下半身丸出しでよくやるわ。

 楽練は挑発的な言葉を放つ自分や、妙に冷静な自身を認識し、少し怖かった。

 その間にも叩かれ、首を絞められた。


 楽練は意識が飛びそうになってるのを感じつつ、変わってしまった自分自身に寂しさを覚えた。

 そんなとき──。


《 ○○○○○○○○○○ 》


──何?

 朦朧もうろうとする意識の中で、ひときわくっきりと浮かび上がる何か──。

 自分の意識とは少し違うものを感じる。


 なんでもよかった。

 倒れそうな体を支えるため咄嗟とっさに近くのものをつかもうとするように、楽練はそれに焦点をあわせた──。


 気付けば楽練の手は女の股間にあった。

 そしてわき上がる音を、心の中でなぞる。


《 せえクリっとフィンガー 》


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ──」

 女の絶叫が全ての音をかき消す。


 女はそのまま気を失い、楽練も程なく意識をなくした。

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