第2話 クッキーを作る男性はケーキ屋さんとか

身体は男寄りなのだから。せっかくだ。「女子」を楽しもう。ホットケーキミックスをかってきた。卵もある。クッキーを作ろう。ココアパウダーも買って、二色の生地にすることにした。

……まるで男と女だな。重ねて丸めて、渦巻き状にしたり、スティック状にして積み上げてマーブルな四角い模様にしたりしていた。

帰宅した母が、荷物を落としそうになっている。

「うまく焼けたら味見してよ」

母の昔の祈りは娘が欲しい、だった。

……娘じゃ無くても、お菓子作りはできる。

ただ、生殖器。それに関してはデリケートな問題だ。

今はただ、クッキーをオーブンレンジで余熱を設定して焼くんだ。

気づいた。おんなも、AVを見るんだろうか?

女の友達に聞くのは、ちょっと憚られる。自分がビビって見てないのに。

なんでも話せる女の子友達がいる。幼稚園時代からの友達だ。

そうだ。きっと今日はこのためにクッキーを焼いたのだ。

あの子に会いに行こう。

気の利いたラッピングがなかった。

ラップに包んで行こうか。

母が恨むようにこちらを見てくる。ベッタリ生地のついたボウルや粉の散乱した台を綺麗にしていくのを忘れずに。

心配しなくても、いきなり「やっぱり女だった!」なんて言わない。どっちも持っているから許されるけど。今は男寄りに生きている。

不意に思い出す。プールの授業は、女の子の水着で、当時は女の子の方が色々隠せて都合が良いこと。でも、ふくらまない胸。がっしりしていく身体。それで、生理は?

ああ、心と身体。はやく、クッキーを届けないと。

最初から自分は、どちらを選んでもいい、幸運な人間に生まれたのだから。

ただ、どちらなんだか迷うだけで……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る